原発問題を冷静に考えるー原子力行政を切る
私は原子力推進の立場を取ってきた。しかし、日本の原子力政策には重大な欠陥がある。それは技術ではなく行政の基本スタンスにあると思う。
(1)政府は「100%安全」というウソを言い通すことで原子力政策を進めてきた。100%というシステムは世の中に存在しない。100%と言うことにより、思考停止となり、その確率を限りなく100%に近づける努力を公にやりにくく、万人の英知が得にくい。(100%安全であるなら100%に近づける努力は矛盾する。)
(2)電力会社は原子力が100%安全ではあり得ないことを知っている。しかし、(1)の理由から、盲目的に政府のガイドラインに従うことに徹してきた。政府は、100%と言った手前、電力会社にその責任を押し付けてきた。結果、責任は曖昧だ。
(3)上記(1)と(2)の理由により原子力が一部の原子力専門家の閉じた世界に止まり、ムラ社会状態になっている。感情的な反原子力の勢力と正々堂々と議論する、というよりも議論を避ける傾向にある。これでは、国民には本当の情報が伝わらないし、国民の理解レベルも上がらない。
(4)原子炉自体は信じがたいほどの安全設計と安全管理がなされている。隕石でも直撃しない限り壊れないとさえ言われる。ところが、その周辺システムが脆弱なことが多いように感じてきた。配管の点検がお粗末だったり、非常電源の設計思想が甘かったり(今回のディーゼル発電機の冠水による故障もこれ)。もっとオープンに英知を結集すれば、周辺システムのこのような欠陥は防げるのではないか。
因みに、このムラ社会体制は電力会社の中でさえもそうなっているそうだ。原子力関係の部署は、会社の経営陣にも本当の情報はすべて開示していないとまで言われている。記者会見に出てくる電力会社の経営トップが質問にしどろもどろなのは、原子力出身ではない経営陣が原子力の本当のことは深く理解していないから。一方、原子力部門の優秀なスタッフは、ムラ社会活動が長いので、一般の人とのコミュニケーションスキルが著しく劣るように思う。これは残念なことだ。
しばらく息を飲む状況が続くが、原子力関係者は今こそ胸を張って、いい知らせも悪い知らせも隔てなく開示されることを期待する。ムラ社会からの啓蟄の時が来たのだ。