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松本零士先生2連敗について

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ちょっと前になりますが、槇原敬之が松本零士先生を、著作権侵害の不存在と名誉毀損で訴えていた件の判決が出ました。実質的に槇原側勝利です(ソース)。

判決文が220ページ近くあるので読むのがしんどいなあと思っていましたが、既に「駒沢行政書士事務所日記」さんがまとめて下さっているので参考にさせていただきました。

まず著作権侵害の不存在については槇原側の訴えが却下されていますが、これは松本先生側が元々の著作権侵害訴訟を取り下げているため訴えの利益がないとして却下されたものです。槇原側が敗訴というわけではありません。

判決には直接関係ないものの、例の2つのフレーズ(「夢は時間を裏切らない 時間も夢を決して裏切らない」(槙原)、および、「時間は夢を裏切らない 夢も時間を裏切ってはならない」(松本))の類似性についても判断されており「類似していない」との判断がなされています。

この事件について以前に書いた「槙原vs松本事件」についてと いうエントリーでは、私は、「この長さのフレーズであれば偶然の一致ということは十分あり得ますし、槇原側が読んだことはないと言っているのに、松本側が『いや読 んでいる』と立証するのは非常に困難であろう」と書きましたが、判決ではそもそも類似していないと判断されました。

名誉毀損の方については、松本先生の発言が名誉毀損にあたると認定され、損害賠償請求が認められました。まあ、「法廷で証明する」と冷静に言うのではなく、当初から槇原側を盗人呼ばわりしていたのでしょうがないと言えます。口は災いの元です。

ところで、単に人づてに聞いた話から判断してるだけですが、作詞家・作曲家の中には良い意味でのパクリを良しとする人もいれば(これについて書いたエントリー)、オリジナリティに徹底的にこだわる人もいる(もちろん、それでも過去の著作物に何らかの形で影響されざるを得ませんが)と思いますが、槇原氏は後者ではないかと思っています。なので、このフレーズ使えそうなのでちょっと拝借してみましたというのは槇原氏においてはあり得ないのではないかと思います(あくまでも憶測)。

さて、この判決のちょっと前にも、松本零士先生は直接ではないですが、関係した訴訟で実質的に負けています。

松本先生が宇宙戦艦ヤマトに関する著作権が自分の元にないにもかかわらず、大ヤマトというキャラを作り、パチンコ機メーカーにライセンスしていたところ、宇宙戦艦ヤマトの著作権を所有する東北新社がパチンコ機メーカーを訴えたという事件です。和解により、パチンコ機メーカー側が2億5千万円の和解金を支払うことになりました(ソース)。

和解であり、また、当事者間の合意により詳細は公開できないということなので裁判所が具体的にどういう判断を下したのかはわかりませんが、こういう形で和解になったということは、著作権侵害が認定される可能性が高かったということでしょう。松本先生にとっては、かつては自分が作った作品のパクリを認定されてしまうという何とも皮肉な結果になってしまいました。

ところで、この件は第一審ではパチンコ機メーカー側が勝訴していました。これも含めてヤマトの権利に関する話はめちゃくちゃややこしいので、興味ある方は「企業法務戦士の雑感」さんなどのページをご覧下さい。

ところで、大ヤマトは、宇宙戦艦ヤマトのキャラに似せて書いたということもできますが、元々松本先生がキャラの書き分けができていない(特に女性)ということも言えるかと思います(失礼)。キャラの書き分けができないマンガ家の方は自作品の著作権のライセンスにおいては気を付けた方が良いかもしれません。

なお、最後に、「男おいどん」をリアルタイムで愛読してきた世代の私としては、クリエイターとしての松本先生は大いにリスペクトしておりますことを付記しておきます。

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