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著作権法における戦時加算についてより詳しく

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ちょっとややこしい話なんですが、先日触れた日本の著作権制度における戦時加算についてまとめてみました()。簡単のために1900年代以降の米国人の著作物に限定します。さらに詳細な情報はWikipediaのエントリー等を参照してください。

大前提としてですが、日本の現行の著作権法では、原則的に著作権は作品の創作の時点に始まり、著作者の死から50年後(より正確には死んだ年の年末から50年後)に満了します(映画の著作物等、例外はいくつかありますがややこしいので省略)。

計算パターンとしては、以下の3つに分かれます。

まずは一番単純な「パターン1:著作者の没年が戦争期間の始まり(1941年12月8日)以前の場合」ですが、この場合は、著作権の存続期間に戦争期間がフルに加算されて、著作者の没年の年末の50年+3794日(=10年強)後に著作権が切れます。現時点ではこのパターンの著作物はすべてパブリックドメインになっています。ジャズ関係で言うと、ジョージ・ガーシュインがこのパターンです。

次に、「パターン2:著作物が戦争期間の終わり(1952年4月28日)以降に作られた場合」ですが、この場合は戦時加算は関係ないので、通常通り、著作者の没年の年末から50年後に著作権が切れます。

ややこしいのは「パターン3:戦争期間中に著作物が作られた場合」ですが、この場合は、著作物の創作時から戦争期間の終わりまでの期間が適切に保護されなかった期間ということで、その期間が通常の死後50年までという期間に加算されます。

ということで、戦時加算がからむと、著作者の没年だけではなく、著作物の創作のタイミングが関係してくるのでかなりややこしくなります。

先日のエントリーで、ジェローム・カーン(1945年没)の作品が、2006年5月にパブリックドメインになったと書きましたが、より正確に書けば(没年から60年強が経過したので)「ジェローム・カーンのすべての作品が(作曲の年にかかわらず)パブリックドメインになったことが確実になった」ということです。実際には、ジェローム・カーンの作品は、その前から、作曲の年に応じて順番にパブリックドメインになってきているわけです。

そろそろ1950年代に亡くなった作曲者(ジャズ関連で言うとチャーリー・パーカー、ビクター・ヤング等)の作品がパブリックドメインになり始める時期なのですが、このように条件が複雑なため、どれが許諾なく使える作品なのかが全然わからない状況です。Wikiでも立てて情報収集してもよいのですが、著作権法が改正されて保護期間が著作者の死後70年までに遡及的に延長されれば、ガーシュインの曲も含めて全部またパブリックドメインではなくなってしまうので、無駄な努力になってしまいますね。

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