にわかに信じ難い法案可決-65歳までの継続雇用義務化-
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二日連続の更新です。オルタナティブ・ブログは結構書くのに体力を消耗するのであまり詰めて書くつもりはないのですが、あまりにショッキングなニュースが入ってきたので、更新する事にしました。
経営者から考えればにわかに信じ難い法案が、衆院委で可決されました。
65歳までの継続雇用義務化、衆院委で可決
衆院厚生労働委員会は1日、希望者全員の雇用を65歳まで確保するよう企業に求める高年齢者雇用安定法案の改正案を民主、自民、公明3党などの賛成多数で可決した。労使の合意で継続雇用の対象外となる人を決められる今の規定を廃止し、厚生年金の受給開始年齢引き上げによって職も年金もなく無収入になる人が出るのを防ぐ。
このほか継続雇用先の範囲を子会社から関連会社に広げたり、指導や助言に従わない企業名を公表したりできるようにする。今国会で成立すれば2013年度から新制度が始まる。
(参照:日本経済新聞WEB版 http://www.nikkei.com/article/DGXNASDF0100R_R00C12A8PP8000/)
経営者からすれば、何とも呆れた話な訳です。これだけグローバル化が進み優秀な人材が流動化する様な時代において、国がなりふり構わず一度雇った人間は65歳まで働かせろよと法で企業に重圧を掛ける。国際競争力を著しく低下させるきっかけになりかねない法案とも言えます。何とも稚拙な意思決定で、憤りすらも感じる訳ですが。
この意思決定が、国にどのような影響を及ぼしていくのか。そもそもこの法案が生まれた背景から順を追って私の見解を綴ってみたいと思います。あくまで主観でのお話なので、私の解釈として受け取って頂けると嬉しいです。
【ずさんな国政のしわ寄せを企業に背負わせる国家】
まずこの法案が生まれた背景には、既に周知である「厚生年金の受給開始年齢引き上げ」が大きく関わっています。受給開始年齢が65歳まで引き上げられ、そして今後は68歳、70歳へと引き上げられるかもとの話題も出ている。要するに「国にお金がない、でも高齢者が増える、このままじゃ年金の支払いが出来ない、だから年金の支払い開始時期を遅らせよう」という考え方が根底にあるのです。
そもそもここに根本の問題が潜んでおり、今後高齢者が増え労働人口が減り税収の減少がほぼ確実と言われている現実を踏まえて本制度を捉えると、現行の年金制度では既に制度自体が成り立たない事を証明しています。となれば本来やるべき事は、既に成り立たない制度自体を抜本的に見直し、問題の根幹を取り除く事が必要な訳です。受給開始年齢を65歳に引き上げることが「問題の根幹を取り除く」施策になり得なかったという事は、現在も68歳、70歳へと受給開始年齢を引き上げようとしている国の動きを見れば明らかな訳で。
しかしここで国がとった行動は、「責任の転嫁」でした。根幹の問題を解決する道より先に、企業に「ずさんな国政が生み出してしまったしわ寄せ」を転嫁する事を選んだのです。その法案が、今回衆院委で可決された高年齢者雇用安定法案の改正案だと私は考えております。
【国民の目を向ける矛先を国政から企業へ】
責任の転嫁、という表現を使いましたが、最もこの法案の意思決定で恐ろしいと感じているのは、国民の目を向ける矛先を国がマニピュレートした事だと考えております。既に述べている様に、問題の根幹は、現行の年金制度が成り立たなくなった事な訳で、制度改定に着手する事から逃れ続けて来た国が責務を追わなければならない事象なはずなのです。しかし、今回の法案によって、国は国民に対して、「大丈夫、年金の受給開始時期が遅れても、法律によって企業が65歳までの雇用義務を発生するようだから、皆65歳まで収入を得る事が出来ますよ」という姿勢を打ち出す事になったのです。国際社会においてより競争力を付けながら戦わなければいけない企業の現実などに目をくれずに、です。
では実際、国民はこの法案をどう捉えるでしょうか。私の周りの経営者は、こぞってこの法案の可決を「愚かな可決」と比喩しています。しかしこれは私の推測でしかないですが、恐らく大多数の国民は、この法案を支持するのではないかと主観ながらに感じています。なぜならば、多くの国民は、「被雇用者」だから。雇用を創出する難しさに目を配れる被雇用者はやはり少なく、雇用される事に対する「安堵感」「必要性」に目を向ける被雇用者の方が母数は圧倒的に多い事でしょう。
となれば、企業が雇用を維持する事が出来ないor維持しない経営方針を取った時に、非難の対象となるのは、そうした「企業」という事になるのです。もう一度言いますが、本法案が生まれた根幹の背景には、現行の年金制度が成り立たなくなったという「国政」の問題が存在します。しかし、本法案が可決され世に周知される事によって、結果的に国が国民の目を向ける矛先をマニピュレートする事が出来てしまうのです。こうして、本件に関わる問題の根本を「国政」の問題から「企業」の問題にすり替えられます。何とも恐ろしい話ですが。
【日本から海外へ】
では現実的にこの法案によって企業はどうなるの?という話ですが、結論から言うと、日本企業が海外に拠点を移すケースが劇的に増える事になるのではないかと考えられます。地場に根付いた産業や実店舗系の産業は別ですが、国内で有り続けなければならない必然性がある企業以外は、どんどん海外に流出するケースが増えるでしょう。理由はシンプルで、より競争力が求められる現代のビジネスシーンにおいて、国に足を引っ張られても生き残れる程日本の企業も余裕はないから。どんどん競争力をつけ、その為に優秀な人材をかき集め、必死に新しいイノベーションを生み出していかなければならないこの時代で、企業を犠牲にし国家を守る為の意思決定を国が簡単にしてしまう事に、どうしても疑問を拭う事ができません。
【国家が危機感を感じなければ、この先にあるのは破滅のみ】
どの企業も死ぬ気で生き残る・競争に勝つ為に奔走している現代に、こうした愚かな意思決定を簡単にしてしまうこの国家に、未来があるのか非常に不安になる一件でした。そしてやはり、古ぼけた感覚がまだ国政内で渦巻いている様に感じます。時代の変化に敏感になり、現実を捉え、危機意識を持った上での国のあり方を考えて行かなければ、この先にあるのは国の破滅のみなのではないかと、心の底より感じてしまいました。
それでは。
P.S.
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