稀代の天才エンジニア寺垣武氏の開発拠点を訪問してきました。
寺垣武さんのオフィシャル・サイトより:
音響機器の中で、氏が最初に着手されたレコードプレーヤーは、
レコード盤の不要な振動を徹底的に抑えこみ、
音溝の凹凸を可能なかぎり忠実になぞる工夫がされています。
一方、
その後に寺垣氏が手掛けられることとなるスピーカーシステムの方は、
従来のオーディオ界で一般的な常識をくつがえすもので、
ボイスコイルによって「振動板(ダイヤフラム)を振動させる」のではなく、
湾曲した(内部応力のかかった)共鳴板にアクチュエイターを点接触させ、
共鳴板全体を「鳴らす」ようにする。
すなわち生ギターやバイオリンの設計に近い作業なのです。
たとえばギターの弦はあれほど大きな振幅で振れていますが、
それだけでは大きな音は出ませんよね?
(アンプに接続していないエレキギターを思い出してください)
生ギターは、よく共鳴する胴体があってはじめて鳴るわけですが、
そのボディ自体は弦のように目に見えるほどの大きな振幅で
振動しているわけではありません。
振動を伝えるナットやブリッジ自体も、
大きな振れ幅で振動しているわけではありません。
それなのにギター全体としては、
非常に大きな音を奏でることができる。
こうしたところに寺垣式スピーカーの秘密があるようです。
http://www.teragaki-labo.co.jp/tofficial/works/speakers.html
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今回、寺垣氏に直接お会いして、
見聞きすることができたヒント:
・振動板というものはゼロコンプライアンスでも鳴る。
・エッジとダンパーがついたダイヤフラムを備えた楽器など存在しない。
・振動板は曲げ応力がかかっているとよく鳴る。
・振動板は必ずしも平行運動するよう設計する必要はない。
ここから考えたこと:
・シンバルのハンマリングは内部に応力を持たせることになり、その結果=>鳴る。
・スネアのリム、ボルト、ラグ、金具類、すべてが全体で鳴っているので、
響きの良い素材(ブロンズ、ブラス)で作ると良い音になるのではないか。
・シンバルのスタンドも響きの良い素材で作ると良い音になる筈。
・ラディックのスネアの真ん中を走るリブには素材に内部応力を持たせる意味がある。
・ドラムのヘッドは均等に張る必要はない。
むしろヘッドの素材の内部に不均等な応力をかけることでより鳴るようになる筈。
なぜなら、音は素材がきれいに平行運動して振動するだけでなく、
結晶の分子が近づいたり遠のいたりしながら伝わり鳴っているから。
たとえば、
体長5mmほどのスズムシの鳴き声があれほど大きいのは、
羽全体が「振動」しているからではなく、
湾曲した形状の羽のタンパク質分子が全体として「鳴っている」から。
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寺垣氏にお会いして以来、
小生自身のオーディオや楽器の「見方」が大きく変わってきました。
スピーカーもドラムも、
振動板やヘッド(皮)だけが鳴っているわけではない。
全体が鳴っているのだ!
歌もそうかもしれない!
(声帯だけで歌うわけではない)
ビジネスも、そして社会全体もそうかもしれませんね。
目に見えてアクティブな部分だけがアクティブなわけではない。
写真:LAの老舗ドラム店にて撮影