つねに新人であり続けることの大切さ
「納得いかないことって、ありますよね。そういうことも、やるべきなんですか?」
「AIでプログラムを書けるのに、プログラミングを学ぶ必要があるのでしょうか?」
「XXXは難しいのでしょうか。どこから学んでいけばいいのでしょうか?」
新入社員研修でよくある質問です。
彼らは、これから未知の世界に飛び込もうとしています。少しでも、先の見通しを持ちたいし、リスクを減らしたいと考えるのは自然なことです。
そんな彼ら/彼女らに、私は次のようなアドバイスをします。
「社会人としての経験がなく、ITやビジネスについての知識に乏しい皆さんが、自分の頭の中だけで考えて、答えを出しても、ろくな結論は得られません。何が正しいのか、どうすればうまくいくのかを、正確に予測することもできないでしょう。たぶん、私が、あなたの質問に"こうすればいい"と答えても、それを心から受け入れ、その通りだと納得できるでしょうか。たぶん、皆さんには、実体験に裏打ちされた知識がありませんから、なるほどと分かったつもりにはなるかも知れませんが、疑問や不安はなくなることはありません。」
「自分の頭の中だけで答えを出そうとするのではなく、実際にやってみて、自分で答えを見つけることです。それこそ、唯一納得できる答えです。」
「考えるな!と言いたいのではありません。考えてください。よく考えても、納得できる答えが出ないのなら、無理矢理に答えを出さないことです。実行して試してみることで、答えを身体で感じることが、間違えのない答えの出し方です。」
「確かに、"答えを出す"ほうが気持ちは楽になります。しかし、世の中は、答えの出ない問いが、いくらでもあります。他の人には答えが出せても、いまのあなたに出せない答えもあります。変化が速く、半年先、1年先を正確に予測することが困難な時代に、これまでの正解が、そのまま使える保証はありません。だから自分で考えて、実践して、何が正しい答えなのかを自分で確認するのが最善の方法です。」
「沢山の本を読むことです。沢山の人と会って話すことです。旅に出るのもいいでしょう。世の中にはいろいろな考え方や生き方があり、答えもひとつではないことを知るはずです。そんな実践も答えを見つけるにはとても役に立つでしょう。ただ、自分の答えを決めるのは自分であることだけは忘れないでください。あなたの答えを誰かが与えてくれることはありません。社会に出たら、大学の試験問題のように、予め正解が用意されているわけではないことを肝に銘じておいてください。」
このようなお節介も、「新入社員研修」講師の役割だと、私は思っています。
しかし、大昔に新入社員を経験した人たちの中にも、「頭で考えて答えを出そう」という人たちは少なくありません。例えば、次のようなことです。
「このようなことに取り組もうと思うのですが、これはDX と言えるのでしょうか?」
トップの大号令で DX に取り組もうという方から、こんな質問をいただきました。話を伺えば、これまでやってきたデジタル化との違いは曖昧なままです。いかなる課題を解決するかの議論も尽くされていません。それ以前に、明確な危機感や変革の必要性についての共通認識がありません。「このままではまずいかもしれない」との個々人の漠然とした思惑が、なんとなく広がっているだけです。
なにかやらなければ、まずいなぁと思い、メディアが語る一般論に照らし合わせて、「DX ぽい」ことをやってみようと考えたり、IT ベンダーが売り込む「何ちゃら DX」というツールを導入すれば「DX をやっていること」になったりと、カタチばかりのDXにこだわっているのです。
DXであるかうかは、どうでもいいことです。直面する課題の解決になるのなら、それで十分ではないでしょうか。
世間の DX と比べる必要はありません。やり方は、会社や組織、個人によっても違います。大切なことは、そのための行動を起こすことです。DXとは、その過程であり、成果です。世間がいう一般論の「与えられた枠組み」に従うことではありません。やってみて、初めて答えに行き着くことも多いと思います。
「直面する課題」という、自分たちにとっての大切なことから目をそらし、講師という赤の他人に、DXのお墨付きをもらって、「DXをやってること」にしたいというのは、賢明なこととは思えません。
DXであるかどうかがわからなければ、やってみることです。他社の成功事例を真似ることや「なんちゃらDX」を導入することではなく、「いま自分たちが向きあうべき課題は何か」に真摯に向き合い、その解決策を試してみることです。
課題に向きあえば、またそのさきに課題が生まれます。それらを最初から全て排除してから取り組むことなどできません。
現時点での最善を選択し、その結果から議論して、改善や変更を積み上げながら、課題を克服し、新たな課題にまた向きあおうとする。そういう過程を通じて、人は学び、成長し、変化に俊敏に対処できる思考や行動の様式が作られていくのだと思います。
DXとは、デジタルが当たり前の世の中になり、そこから生じる様々な変化や自分たちのビジネスへの影響に対処するために、会社を作り変える取り組みです。そんなことが簡単にできるはずはありません。だからこそ、前述のようなやり方が必要であり、そういうことを頑張らず、日常的に繰り返しできる企業の文化や風土を育てていかなければなりません。この過程と結果がDXなのだと思っています。
新入社員のみなさんには、上記のような話をした後、次のようなことを話します。
やるべきこと(Must)とは、与えられた責任や仕事のことです。やるべきことに最善を尽くせば、自ずと関連する知識やスキルが、幅広く必要になります。
結果として、あなたにやれること(Can)が増えていきます。やれることが増えれば、やりたいこと(Will)が、向こうからやって来ます。それを見逃さないために、常に好奇心を持ち、チャレンジし続けてください、と。
このように考え、行動しなくてはならないのは、なにも新人ばかりではないと思います。テクノロジーの進化が早く、未来を予測できない今の時代にあっては、私たちはみんな「新人」です。
そんな過去の常識だけに頼ることのできない世の中を生き抜くには、自分たちもまた、「新人」であることを忘れずに、実践を通じて学ぶ必要があるのだと思います。
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