「内製化×クラウド×生成AI」が工数需要を呑み込んでしまうシナリオ
昨日述べた、ITビジネス環境の変化を改めてここで整理しておきましょう。
- コロナ禍をきっかけに「デジタル化需要」が急速に高まり、デジタル化の取り組みが進んだ。
- この過程で、デジタルの価値を実感したユーザー企業が、デジタル前提で会社を作り変えること、すなわちDXを推し進める意欲を高め(「DX需要」を生みだし)ている。
- そんな自社の変革や競争力の源泉となるITを外注に依存せずに自分たちでできるようにしようとの意欲が高まり、内製化の動きが拡がっている。生成AIの機能向上やクラウド・サービスの充実は、この内製化の動きを加速する。
ITあるいはデジタル化の需要は今後とも拡大しますが、「内製化×クラウド×生成AI」が工数需要を呑み込んでしまうため、SI事業者へ外注する必然性がなくなり、工数需要が減少するわけです。
もちろんITエンジニアが不要になることはありません。但し、ITシステム全般についての包括的な知識や最新のスキルを有した「少数精鋭のITエンジニア」がいれば十分で、大人数は不要です。
そんな彼らが主導して次のような取り組みも始まるでしょう。
- ユーザー人材をリスキリングして、システム内製の能力を持たせる
- ITシステムの構築や運用を自分たちで担える環境を整える
- クラウドを前提とした基幹系システムへの刷新を図る
この変化を改めてまとめると次のようなシナリオが描けます。
- 「デジタル化需要」の拡大に伴い、真の意味での「DX需要」が喚起され、ユーザー企業は、内製化の意欲を高める。
- 「クラウド・サービス」や「生成AI開発ツール」の充実と普及により、システムの開発や運用の生産性向上と効率化が進む。
- ITエンジニアへの期待が、「プログラミングできる統率された多数の人材」から「システム開発全般を包括的に理解し最新にも精通する自律した少数精鋭」へとシフトする。
- 「ユーザーによるアプリケーション開発」が普及し、現場ニーズに自ら迅速にシステム対応できるようになる。
- 「少数精鋭のエンジニアによるクラウド前提の基幹系システムへの刷新と自前での開発と運用」が定着する。
外注を前提としたシステム開発コストが今後も変わらないとすれば、クラウドや生成AI開発ツールの充実と普及は、システム開発コストを大幅に低減させるため、外注する必要はなくなります。また、生成AIを組み込んだローコード開発ツールの充実によりユーザーによる開発が容易になれば、現場を1番よく知るユーザー自身での開発が一般化します。このような変化もまた、SI事業者に対する工数需要を減少させるでしょう。
システム開発のテーマは増え続け、IT需要は今後とも拡大します。一方で、「ユーザーによるアプリケーション開発」と「少数精鋭によるクラウド利用」が拡大するため、SI事業者の工数需要は減少に転じます。このような変化に対処するには、SI事業者は、工数需要に偏った事業構造の転換を図るしかありません。
ただ、事業構造の転換は、短期的には「成長戦略」にはなりません。それは、新しい事業構造に対応できる人材と従来の工数需要に対応するための人材の知識やスキルが異なるためです。
特に意欲もあり、能力が高い人材は、既存の工数ビジネスでも重要な役割を果たしているのが一般的ですから、彼らをリスキリングするために実践の現場から外さなくてはなりません。そうすると、彼らの稼働率が下がり、売上や利益を押し下げる要因になるでしょう。
ただ、新しい事業構造に対処するには、このハードルを越え、「生き残り戦略」へとまずはシフトしなくてはなりません。その後に成長できるかどうかは、生き残ってからの話しです。
安定して低利益率に甘んじていた企業にとっては、死の淵を飛び越える覚悟が必要でしょう。ただ、先にも述べたように、これほど急激な変化が起きる以前から、同様の問題は指摘されてきたわけですから、それに対処してこなかったツケが回ってきたともいえ、災害級の変化を乗り越えるには、相応の覚悟を持って臨むのは当然のことです。
では、とのように事業転換をすすめればいいのかについては、明日解説します。
【募集開始】次期・ITソリューション塾・第47期(2024年10月9日 開講)
次期・ITソリューション塾・第47期(2024年10月9日[水]開講)の募集を始めました。
次のような皆さんには、きっとお役に立つはずです。
- SI事業者/ITベンダー企業にお勤めの皆さん
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ITソリューション塾について:
いま、「生成AI」と「クラウド」が、ITとの係わり方を大きく変えつつあります。
「生成AI」について言えば、プログラム・コードの生成や仕様の作成、ドキュメンテーションといった領域で著しい生産性の向上が実現しています。昨今は、Devinなどのような「システム開発を専門とするAIエージェント」が、人間のエンジニアに代わって仕事をするようになりました。もはや「プログラマー支援ツール」の域を超えています。
「クラウド」については、そのサービスの範囲の拡大と機能の充実、APIの実装が進んでいます。要件に合わせプログラム・コードを書くことから、クラウド・サービスを目利きして、これらをうまく組み合わせてサービスを実現することへと需要の重心は移りつつあります。
このように「生成AI」や「クラウド」の普及と充実は、ユーザーの外注依存を減らし、内製化の範囲を拡大するでしょう。つまり、「生成AI」や「クラウド」が工数需要を呑み込むという構図が、確実に、そして急速に進むことになります。
ITベンダー/SI事業者の皆さんにとっては、これまでのビジネスの前提が失われてしまい、既存の延長線上で事業を継続することを難しくします。また、ユーザー企業の皆さんにとっては、ITを武器にして事業変革を加速させるチャンスが到来したとも言えます。
ITに関わる仕事をしている人たちは、この変化の背景にあるテクノロジーを正しく理解し、自分たちのビジネスに、あるいは、お客様への提案に、活かす方法を見つけなくてはなりません。
ITソリューション塾は、そんなITの最新トレンドを体系的に分かりやすくお伝えするとともに、ビジネスとの関係やこれからの戦略を解説し、どのように実践につなげればいいのかを考えます。
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※神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO(やまと)会員の皆さんは、参加費が無料となります。申し込みに際しましては、その旨、通信欄にご記入ください。
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生成AIを使えば、業務の効率爆上がり?
このソフトウェアを導入すれば、DXができる?
・・・そんな都合のいい「魔法の杖」はありません。
これからは、「ITリテラシーが必要だ!」と言われても、どうやって身につければいいのでしょうか。
「DXに取り組め!」と言われても、これまでだってデジタル化やIT化に取り組んできたのに、何が違うのかわからなければ、取り組みようがありません。
「生成AIで業務の効率化を進めよう!」と言われても、"生成AI"で何ですか、なにができるのかもよく分かりません。
こんな自分の憂いを何とかしなければと、焦っている方も多いはずです。