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個人の学びが組織の学びにならない理由

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「これからのIT戦略について、情報システム部門に相談しても、現行の改善案程度の話しか出てこない。付き合いのあるITベンダーに話しを聞いても、情シスと口裏を合わせているとしか思えない話しか出てこない。」

ユーザー企業の経営者から、こんな嘆きを聞かされたことがある。

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システムを大きく変えることには、リスクが伴う。それを避けるためには、可能な限り現行を維持したい。そしてそうなれば、改善に留まる話しか出てこない。

このような状況にあると、新しいことを学ぶことに消極的になってしまう。そんな彼らと価値観を共にするITベンダーが、経営者や事業部門から、いぶかしく思われるのは、当然と言えるだろう。

もちろん、個人として、新しいことを学んでいる人は沢山いる。しかし、こんな日常が当たり前の組織にいると、個人の学びが組織の学びに変わることはない。

心理学においては、学習とは、「人間や動物が過去の経験によって行動様式に永続的な変化が生じ、環境に対する適応の範囲を広げていく過程」とされている。例え知識を得ても、行動しなければ、社会の変化に適応できずに、生存の危機に陥ると言うことだ。

講義や講演の機会を頂き、私の話を聞いて、個人として行動を起こしてはみたものの、その経験を発言しにくい組織の風土があるとの嘆きを聞くことがある。有志の勉強会に留まり、組織的行動にならないという話しも多い。また、上司から、仕事に差し障りがあるから、ほどほどにと言われることもあるという。これでは、せっかくの個人の学びが、組織の学びにならない。

組織が意志を持つことはないのだから、組織が勝手に学ぶことはない。組織の成員たる個人が学び、そこれを積極的に議論して、組織に取り込まれて、組織の学びになる。つまり、組織の学びには、次の3つのステップが、必要となるだろう。

知る:自分たちの常識が、どれほど世の中の非常識であるかを知る機会を得て、「現実(as is)」と「あるべき姿(to be)」とのギャップを、個人が明確に認識すること。このギャップが「課題」である。

行動する:個人の意識した「課題」を組織で議論し、組織の「課題」として共有し、課題解決の方法を明確にする。この「課題解決の方法」が「ソリューション」だ。ちなみに「ソリューション」とは、IT製品やITサービスのことではない。それが含まれることはあるが、ルールや組織・体制、習慣や暗黙の了解を変えることなども含まれる。

定着させる:そんな「ソリューション」を行動に移し、試行錯誤して、自分たちにとっての最適なやり方を見つけ出して、日常の意識や行動に埋め込む。これが、組織の学びであり、定着し行動習慣に変われば、組織の「知恵」であり、企業文化となる。

自分たちの常識と世の中の常識のギャップを知ることは、講義や講演が、手段のひとつになるだろう。しかし、組織として共有するには、経営者や管理者の積極的な関与が不可避だ。

「うちの社員は、いくら研修をしても、行動しない」

そう嘆く経営者や管理者もいるが、議論できる場や空気を作る努力を怠っている自分たちが、その原因であることに気付くべきだろう。まずは、そんな現実を受け入れて、重たい壁を取り払う方策を経営者や管理者が、考え、行動に移すことが必要だ。

「知る」機会を作ることは、外部に求めることができる。しかし、「行動する」場を作るのは、自分たちでやるしかない。それがなければ、「定着させる」ことはできない。

ユーザー企業の経営者や事業部門が、ITベンダーに期待するのは、このステップをこなすための「実践知」だ。DXの本質は、「デジタルが前提の社会に適応するためのビジネス変革」であるとすれば、そのための「実践知」が、「DX事業」の根源的価値となる。しかし、実践していなければ、「実践知」などないわけで、お客様の期待に応えることはかなわない。それにもかかわらず、「お客様のDXを支援します」などと、口にするのは、恥ずかしいという自覚を持つべきだ。

DXおまかせキャンペーン」という広告が目にとまった。きっと、ビジネス変革の「実践知」を授けてくれるのだろう(笑)。しかし、このジョークを、あなたは本当に笑えるのだろうか。

個人の学びを組織の学びに転換する。DXを実践するとは、それができる組織の風土を作ることから始めるべきではないだろうか。

神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO

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八ヶ岳南麓・山梨県北杜市大泉町、標高1000mの広葉樹の森の中にコワーキングプレイスがオープンしました。WiFiや電源、文房具類など、働くための機材や備品、お茶やコーヒー、お茶菓子などを用意してお待ちしています。

8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。

【図解】コレ一枚でわかる最新ITトレンド 改装新訂4版

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2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1

目次

  • 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
  • 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
  • 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
  • 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
  • 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
  • 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
  • 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
  • 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
  • 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
  • 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
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