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次の需要に応えられる知識やスキルを身につけるための3つのこと

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需要があって、それに応えられる知識やスキルがあるから給与をもらい生活ができている。当たり前のことだが、もし「いま」の需要がなくなったとき、あなたは次の新しい需要に応えられる知識やスキルを持っているだろうか。それがなければ、あなたの人生の選択肢は限られたものになってしまう。

例えば、インフラの構築や運用については、クラウドの普及とサービスの充実によって、「いまの需要」が、なくなってゆくことを覚悟しておいた方が良さそうだ。

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アプリケーション開発もまた、スピードとテクノロジーを重視する時代となり「内製化」は必然となるだろう。「内製化」に関わる開発者は他社と差別化できるビジネス・ロジックに徹底して集中したいと考えるだろう。しかし、インフラやプラットフォームがいまのままでは、付加価値を生み出さない作業で大きな負担を強いられる。例えば、ミドルウェアの設定、インフラの構築、セキュリティ・パッチの適用、キャパシティ・プランニング、モニタリング、システムの冗長化、アプリケーションの認証・認可、APIスロットリングなどの作業だ。だから、開発者は、そんなことを気にする必要のない、コンテナやサーバーレス/FaaS、あるいはPaaSを利用するようになるだろう。当然、スピードと柔軟性が必要なので、アジャイル開発とDevOpsは前提となる。ローコード開発も選択肢になる。

あなたは、こんな「次の新しい需要に応えられる知識やスキル」を身につけているだろうか。

もちろん、旧来のテクノロジーや手法に頼る既存システムがただちになくなることはない。当面は、これらの保守や機能拡張が、工数需要を生みだしてくれる。だから、いまの知識やスキルが直ぐに使えなくなることはない。しかし、このような仕事の単金が上昇することはない。むしろ、「少しでも安く」のプレッシャーが、いつものしかかるので、単金を上げにくい。仕方がないので、残業を増やすことで稼働率を上げるしかないが、それに見合う昇給は難しいだろう。

新しいことへの取り組みの機会も与えられず、給与も期待ほどには上がらないとすれば、優秀な連中は転職してゆく。定着率の悪い企業によくあるパターンだ。経営者はこの現実を真摯に受けとめる必要がある。もちろん、転職する当事者にしても、「次の新しい需要に応えられる知識やスキル」がなければ、どこも雇ってはくれない。

では、とうすればいいのだろう。次の3つのステップがありそうだ。

1.学びたいと思うこと

最初のステップは、学びたいと思うことだ。学びたいと思わなければ、けっして学ぶことはできない。当たり前に聞こえるかも知れないが、これができない人がいる。その理由は次のようなことだろう。

外を見ようとしない・交わろうとしない

職場と自宅の往復だけで、同僚やお客様以外に会話する相手がいない。職場以外の世界に関心が薄いので、世の中の変化に鈍感になってしまう。その結果、内部の論理が幅をきかせるようになり、もっと大切なことに気がつかない。だから、大切なことを学びたいという意欲も生まれない。

自分の常識が正しいと思っている

世の中の常識を知らなければ、自分の常識がどれほど、世の中からずれているかに気づくことはないだろう。むしろ、自分の常識に従い、いつも通りにやったほうがリスクもなく、無難である。なによりも、分かっていることなので楽にできるから、自分はそれなりにスキルがあると勘違いしてしまう。いまの状況でいいと思ってしまうので、新しいことを学ぼうという意欲など生まれない。

"変に"プライドが高い

こういう人たちに共通する特徴は、"変に"プライドが高いことだ。自分はできるし、知っているし、他人にとやかく言われなくても仕事をこなしているというプライドである。しかし、それは、自分の知っている狭い世界での「自分はできる、知っている、仕事をこなしている」であって、それが世の中の常識からみたらどうかという謙虚さがない。また、新しいことには、「そんなものは新しいことではない。同じようなものは昔からあった」と受け入れようとせず、世の中は簡単には変わらないと、自分の考えを他人に押しつけようとする。このように古い知識をアップデートすることに関心がないので、新しいことを学ぼうとは思わない。

まずは、この「思考停止」から脱することだ。何を学ぶかは、人それぞれだが、「学びたいと思う」という第一歩を踏み出さなくては、「次の新しい需要に応えられる知識やスキル」を身につけることはかなわない。

2.行動を起こすこと

次のステップは、行動を起こすことだ。例えば、朝の1時間を自分の勉強のために使う、いろいろな勉強会やセミナーにどんどん参加する、イベントやセミナーでは一番前の席に座る。なんでもいいが、いつもと違う行動をはじめることだ。何をするか、何を学ぶかを決心する前に、まずは動き始めるといいだろう。決心してから行動するは、なかなかうまくいかない。まずは動き出してみて、日常の習慣として、自分の当たり前にすることだ。そうすれば決心は、自ずと決まってくる。

3.アウトプットすること

最後のステップは、アウトプットすることだ。それは必ずしも他人に伝えることばかりではない。自分の考えをノートにまとめてみるのもいいだろう。とにかく、自分の頭の中から外に出してみることだ。本を読めば、あるいは講義や講演を聞いていれば理解できるという考え方は甘い。効果的な学び方は、文章や絵にする、人に説明するなどの行動がとても大切だ。そういう行動を通して、これまで蓄積した自分の知識と関連付け、自分の中の知識の構造を組み立て直すことが「理解」である。そうやって、意識して積極的にアウトプットするほど学びは深まってゆく。

特に、単語の羅列や箇条書きでメモをとることではなく、文章にするのは効果的だと思っている。確かに、単語の羅列や箇条書きは簡便だが、重大な弱点がある。それは、言葉の要素や概念のあいだに「論理」をつくったり、「物語」をつくったりすることができないことだ。

「思いついたまま」の羅列は、論理や物語、あるいは関係や構造を考えないまま、書き出しだけで安易な達成感を味わってしまい、分かった気になってしまう。当然そんな中途半場な知識では、仕事に役立たないし人に何かを説明するにも筋の通った説明ができなくなってしまう。それが習慣化すると、これはビジネス・パーソンとしては致命的だ。

羅列や箇条書きではなく文章にすると、自分の理解の度合い、つまり論理や物語を伴う理解の程度が「見える化」される。例えば、論理がないと、唐突な展開や文意が通らず、物語がないと、単調でつまらないものになってしまう。文章にして「見える化」しなければ、それに気付くことはできないからだ。

いまの需要がなくなることを実感した時には、もはや世の中はそうなっているということだ。そうなってからでは、自分にとって有利な選択肢は限られてしまうだろう。「早い」は自分の価値を高める有効な要件だ。

「学びたいと思うこと」、「行動を起こすこと」、「アウトプットすること」。言い古された教訓ではあるが、改めて考えてみてはいかがだろう。

2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1

目次

  • 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
  • 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
  • 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
  • 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
  • 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
  • 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
  • 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
  • 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
  • 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
  • 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
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