アナログかデジタルかは問題ではない、顧客の機微を知るものが勝つ時代へ: 【書評】データ・アナリティクス 3.0
ビッグデータ云々の前にビッグなドウターにてんやわんやしています、松井です。
本エントリーで紹介する書籍 データ・アナリティクス 3.0 を訳者である小林啓倫さんよりいただきました。この場を借りてお礼を申し上げます。
本書はビッグデータを取り扱う本ではありますが、技術に関することよりも、考え方を重点的に取り扱っています。
データ解析をどのようにビジネスに活かすか、消費者との関わりがどのようになるかなど、経営視点での分析が中心なので、経営者の方にもオススメできます。でも、技術者にこそ読んで欲しいですね。その理由はまた後ほど。
このところ、グロースハックやInternet of Things、ビッグデータといったようにデータを解析することで人の動向や心理を分析することに注目が集まっています。これは、これまでのようなマスマーケティングが限界に来ていることを感じさせる現象です。
インターネットで情報に簡単にアクセスでき、ワンクリックで買い物ができる時代です。いかに先回りし、個人個人にカスタマイズした情報を提供するかが鍵となるのでしょう。
そういった状況ですから、消費者のあらゆる動向を採取し、分析する需要が出てくるのも当然かもしれません。
このような状況で、ビッグデータやデータアナリストといったリソースを持たない企業、個人事業主はどのように生き延びていけば良いのか。実はそのヒントも本書には含まれています。
ユーザーは過度にターゲティングされることを嫌うという調査結果があるようです。
P.59 第1章 なぜビッグデータが重要なのか
例えば米国のインターネットユーザーの68%が、自分の検索内容やウェブサイト閲覧履歴に基づいてターゲティング広告が表示されることを望まないと回答している。
たしかに、あまりにも自分に最適化された情報を見せられると、監視されている印象を持つ人は少なくないでしょう。自分自身の痛い部分も見せられてしまうという側面もあるかもしれません。フィア アピールをやりすぎてただの脅しになるように。
いくら情報が詳細化し、人の機微を事細かに分析できたとしても、程よい距離感は必要なのでしょう。
それと僕は、対象顧客が少ない事業者がアナログ的手法で顧客を分析することと、大企業が多数の消費者の動向を、ビッグデータを用いて分析することにそれ程大きな違いは出ないのではないように思います。
デジタルデータの密度が極度に高くなると、それは一見アナログと見分けがつかなくなります。
一例を出すと、最近良く目にするようになったハイレゾ オーディオという言葉。これは、音声データのサンプリング密度を高めてアナログの音を再現しようというもの。今までのデジタル音声は情報の密度が低いため、音声が荒いという考えから出てきたものでしょう。
ビッグデータの分析も同じようなもので、消費者の動向を採取する時間軸の密度を高めて、消費者の行動や心理をより連続的なものとして捉えるということではないかと思います。
これはデジタルデータを使わなくとも、密接なコミュニケーションによって相手を知る方法を取れば実現できそうです。
ではなぜ、ビッグデータなのかといえば、人間が対応できる規模と時間、距離の問題を解決するためです。
ですから、小さな事業で少数の顧客を対象とするならば、ビッグデータを用いなくとも同等の成果は出せるのではないでしょうか。
Internet of Thingsが当たり前になり、ビッグデータにより人々の生活が分析されると、サービス提供者はより、個々に最適な情報やサービスを提供できるようになります。
ただし、あくまでも提供する相手は人。距離感を間違えればそのサービスがただのおせっかいになり、嫌悪の対象になる可能性は十分にあるのです。
データ・アナリティクスの本質を理解し、正しく活用しなければいけない。これからもじっくりと顧客との関係を築き上げていく必要がある。それを簡単にする魔法はない。そのことを理解しなければ優れた分析もゴミクズである。
そんなことを学んだ一冊です。
冒頭で、技術者にこそ読んでほしいと思ったのは、このような内容を知ってほしいと思ったから。技術は幸せのための道具でしか無いということ。
P.7のまえがきに以下のような記述があります。監修者による言葉です。
ビッグデータをIT部門が推進すると、どうしてもツールの導入から始まりがちであり、確かに昨今のツールは機能性が高いが、それでもツールはツールでしかない。
このことを理解せずに使う道具はただの玩具ではないか。
そのことを技術者に知ってほしいと願っています。
日経BP社
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