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グルーポンとプラットフォーム戦略

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日本でも話題の米国発共同購入クーポン・サイト、グルーポンが、最近、「グルーポン・ストア」というサービスを開始した。「グルーポン・ストア」とは、ローカル・ビジネス(小売店、レストラン、各種サービス・プロバイダー等など)が、グルーポンのプラットフォームを通じて自由自在にプロモーションを発信できる仕組み(クーポン・モール)だ。従来型のグルーポンのシステムは、いわば「広告代理店」モデルで、営業マンを通してプロモーション企画をオーダーし、グルーポンがもつ広告スペース(ウェブサイト)に掲載してもらう。グルーポンは基本的に「デイリー・ディール(一日一件のみ)」のシステムだから、発注をしてからプロモーションが実施されるまでの待ち時間が長く、年間に実施できるプロモーションの数も限られている。

しかし、「グルーポン・ストア」であれば、ビジネスは好きな時に、好きなだけプロモーションを発信できるというわけだ。それも、従来型のグルーポンのシステムでは、グルーポンを通して売れたクーポンの売上の50%というかなり割高なコミッションが徴収されるが、「グルーポン・ストア」のセルフ・サービス・システムを使えば、コミッションは10%で済む。グルーポンの登録顧客に毎日配信されるEメールを通じてプロモーションの告知をするなど、アドオン・サービスを利用したとしても、コミッションは、従来の方法に比べてかなり割安な30%だ。

「グルーポン」といえば、毎日のように競合サービスが出現する中で、その三つの脆弱性が指摘されている。ひとつめは、独自性のなさ。基本的に、グルーポンのサービスは、誰でも容易に真似できるサービスだ。事実、アメリカの共同購入クーポン・サイトでグルーポンに次ぎ二番手の「リビングソーシャル」は、グルーポンに酷似したサービスを展開し、サイトも見間違えるほどだ。今日、アメリカだけでも約200件の「グルーポン系」ビジネスが存在するというが、これは同社のサービスの模倣のしやすさに端を発している。

ふたつめは、スティッキネス(粘着性)に欠けることである。顧客が離反しにくいサービスというのは、顧客が取引を重ねれば重ねるほどメリットが倍増する、あるいは、何らか(情報、ポイント等)の蓄積がされるため、他社のサービスを併用したり、離反することで損が生じる構造になっているものである。だが、グルーポンにはこれらの要素がない。グルーポンの顧客が、他のサイトを併用することを阻むものは何もないのだ。強いて言えば、顧客嗜好や行動データの蓄積によるパーソナリゼーションが始まっているが、これもまだ目に見えた結果を生んでいない。

みっつめは、スケーラビリティに欠けることである。「グルーポン・ストア」が解決しようとしているのはこの問題である。先にも述べたように、従来型のグルーポンの仕組みでは、プロモーションを提供したいビジネスが、グルーポンの営業マンにオーダーを入れ、企画を練った上でグルーポンの所有媒体(ウェブサイト、メール)に広告を掲載するという「代理店モデル」をとっている。このモデルでは、営業地域を広げれば広げるほど、それだけ数多くの営業マンを要するという事情があった。事実、現在3,000人近くいるというグルーポン社員のうち約半数が営業マンであるという。

従来型のモデルでは、「媒体」の考え方もスケーラビリティに欠ける。ひとつの地域で複数のプロモーションを並行して展開する「マルチ・ディール」の試みが始まってはいるものの、グルーポン・モデルの基本は「デイリー・ディール(一日一本限定)である。広告スペースが限られているから、当然、発注から実施までのリードタイムは長く、少なくとも約1カ月はかかるという。しかも、従来型のモデルでは、各ビジネスがグルーポンのサイトに掲載されるのは最高でも年間2回のみだ。この数値を見ただけで、いかに従来型の「グルーポン・モデル」がスケーラビリティに乏しいかがおわかりいただけるだろう。

ネット、リアルに限らず、これからのビジネスの成功のカギは、嗜好や目的を同じくしたユーザーが集まり、活動を行う「プラットフォーム」を提供するということだ。「グルーポン・ストア」の導入によって、グルーポンはよりプラットフォームに近い形へとそのビジネスを転換させていっているといえるだろう。これまでのグルーポンは、いわば「広告・プロモーション媒体」に過ぎなかった。しかし、複数の売り手や買い手が集まり、自由自在に取引できる「クーポン・マーケットプレイス」を展開することにより、ユーザーが増えれば増えるほどそのメリットが増す「ネットワーク効果」を生み出すことができる。

しかし気になるのは、「共同購入クーポン・サイト」に限らず、異種競合の動きである。ウェブを基盤として、プロモーションを通じて売り手と買い手を結ぶビジネスが続々と出現してきている。フェイスブックのような大手をはじめ、大小さまざまな企業が「ソーシャル・プロモーション」に群がる中、グルーポンに勝ち目はあるのか。続いて、「ソーシャル・プロモーション」における差別化要因について考察してみたい。


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