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盛り上がるブレストばかりが良いブレストじゃない。沈黙も含めて大事にしたい。(アイデア・デザイン・創造学を研究しているといろんなTipsに触れます。600文字で紹介します。)

創造する人々、続編。震災の中でも、創る

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2009年1月に、誠Biz.IDの連載「創造する人々」に登場した、完全手作りで、折り畳みギターを作る職人、島野裕次さん。彼は、私と同じく仙台在住。そんな彼が、震災の後の激しい余震の中、降ってくる蛍光灯から守りつつ作っていたものが。

ある方に向けてつくっていた「折り畳み鍵盤楽器」。それを届けて実際に試し引きしてもらった様子が彼のYoutubeにある。

【再生注意】 大きい音が出ます。


(3:05分あたりから演奏が始まります。)


島野さんと電話で話すと"これは電源のない場所へ手軽にもっていてもらって弾き語りを可能にできたら、という気持ちで、作ったんです"とのこと。

使われているのは鍵盤ハーモニカ2台だが、予想とは違った調べを奏でている。

「電源がなくても使える、どこへでもって行ける。」そういう楽器を作りつづける彼は普段あまり多くは語らないが、作品はいつも彼の姿勢を饒舌に語ってくるように私には思えた。



彼は、楽器作家の腕と、金属加工の腕がかわれ、松島の年代物のオルゴール(※)を展示する館(ベルギー オルゲール ミュージアム)で、何百年前の作のオルゴールのメンテナンスの仕事をしていた。一度その修理の現場を見せてもらったことがある。彼の天職と思える仕事で、何百年前の作り手と対話しながら、一つ一つ丁寧に復活させていく背中には、近寄りがたいものを感じた。彼が丁寧に直した古いオルゴールは、そこを訪れた多くのお客さんに涙を流させていた。

(※:より正しくは、自動演奏楽器。オルゴールは金属のくし歯をはじいて鳴らす自動演奏楽器の一種で、同ミュージアムには、金属のくし歯をはじくもの以外にも、様々な機構の自動演奏楽器があった)

そのミュージアムは、非常に残念なことに、震災の被害が予想以上に大きくそのまま閉館となることが決定した。

「でも、また、なにか面白いこと、できるんじゃないかと思って。」

電話口で島野さんは、いつものような声で答えた。あれだけの手間をもってして直してきた年代物のオルゴールたちへの島野さんの気持ちを思うと、私は何も言うことができなかった。

彼は、そういう状況でも、新しい作品をまた一つ作っていた。多分、これからもずっと、作るだろう。

私は普段あまり使わない言葉に「オーラ」という言葉がある。創造する人々の作品には、しかし、そういう、魂の宿るような、としか言いようのないものが、時として感じられる。それについて詳しく言葉で言えるほどには、私はまだ能力がない。

創る人は、どんな状況でも創りつづける。

島野さんを応援するなんておこがましいことは言えない。島野さんの動画を何度も見ながら、私もアイデア創出支援ツールの作り手、として、作り続けることをやめてはいけない、と感じた。震災の中、避難中もずっと作っていた「子供のアイデア創出を支援するツール」を早く形にせねば。願わくば、ユーザへの愛情が製品にほんの少しでも、宿るような仕事をしたい。向かい風に立ち止まらず、追い風にあおられずに。

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