漫画家さそうあきらさんの創作方法
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『神童』『マエストロ』などの作品を作られた漫画家「さそうあきら」さんが、新刊を出されました。漫画ではなく、"漫画の教科書"です。(でも、漫画付きです)。
さそうあきらさんは、京都精華大学の准教授もされていて、マンガを創作するコースの先生もされています。その中で、アイデア出しに深い洞察を行われています。そのご縁で数年前から一緒に、ブレストの講義をさせていただく機会をいただいています。
内容は、漫画を志す方にとり、とても分かりやすい「考える技術」が語られています。
普段、本のレビューを書かせてもらう時には、文字を中心にして写真はあまり使わないのですが、この本、全編「手書き文字」で作られています。その「活字にしていない文字のもつ情報の多さ、醸す空気」を紹介したくて、すこし写真を多めに載せながら、この本を紹介したいと思います。(一応、著作物であることに配慮して掲載していますが、載せすぎでしたらご指摘ください)
初めの部分から、さそうさんの「マンガを考え出す技術への姿勢」がうかがえます。
漫画がたくさん挿入されているのですが、語り部分では、さそうさんの人柄や呼んでくれる人への基本姿勢が垣間みられるタッチで、エッセイのような文章がつづられています。(少ない文字量で、多くを伝える文章、というのは、実はとても練られたものであります。この本もしかり、かと)
活用されているアイデア発想法の部分です。
マンダラート。ゼミの学生さんたちと、マンダラートで拡げたアイデアも掲載されています。
(マンダラートは今泉さんの考案された技法で、今では、マンダラートのiPadのアプリも出されています。紙の上でものを考え拡げる職業の方には、とても相性がいいように見えます。漫画の専門の方々が描かれたマンダラートの実物を見られるのは、創造活動への洞察の観点でも興味深い資料かと思います。)
マインドマップ。ある情報をマインドマップで書かれたものが掲載されています。
(この地図1つ見ても、ここからお話の中の部隊や人の動きが、世界が、想起されそうな面白い内容です。)
ブレインストーミングのくだり。P146あたり(エッセイ的解説ページにはページ番号がありませんので、付番されたページから数えています)
(うれしいことに私石井のことも、紹介してくださっています。大変、恐縮です!)
本の中には、4ページ漫画がたくさん載せられています。不思議な話。大人の悲哀。少し変わった男女の会話。などなど。漫画として、気楽に読むこともできる本として、うまく構成されています。
そして、最後は、「ネームをつくる」というパートです。
さそうさんが、実際にネームを作る作業の最初の段階のノートが、掲載されています。沢山のコマがあって、それをページ数内に収めることを鑑みて、可能なコマ数を割出し、削られている(×がついている)コマがあって、計算通りのコマ数までそぎ落とされています。いわば、「文字による絵コンテ」のようなもの。
(この辺は、漫画家さんの頭の中の活動を、創造の活動という観点から光を当てるときに、とても興味深い資料だと思いました。なるほど、こういう頭の中での思考活動があるのか、と。)
(なお、このノートを見ながら、このシーンは、こんな風になるのかな?あんなふうかな?と、漫画が好きな人なら結構自分なりに思い浮かぶ絵がありそうです。それを想像しながら読むのものは、かなり楽しかったです。)
その「文字による絵コンテ」が、ネームになる段階のものが掲載されています。この後に、実際に商業誌にのった紙面も掲載されています。
「文字による絵コンテ」→「ネーム」→「完成原稿」と見てゆくことができ、興味深いです。
そして、最後のメッセージ部分も示唆深いものがあります。
若い漫画家志望の方に向けたメッセージを意図して書かれているのかもしれませんが、漫画分野にかぎらず、多くの人にとって、「創る」時の苦しみの中で、背中を押してもらえるようなメッセージだと、思います。
そんな、面白く、かつ、示唆深い一冊でした。
本の表紙の裏側に、たぶん、さそうさんの文具と思われるものが乗っています。骨格標本が入っているあたりは、面白いですね。
(人間を描き出す漫画では人間の縮図である骨格標本が入っているならば、ビジネスマンの文具には、顧客市場の縮図となるよう市場ゲームボードとかが、入っていると面白いんじゃないだろうか、と、ふと連想したりしていました。)
そんな一冊でした。
多少、写真を多く載せすぎただろうか、と心配気味ですが(怒られたら、減らします)、創造について興味のある多くの人にとって、一度手に取ってみてもらいたい一冊でした。漫画を志す方にももちろん、多くの前に進むための栄養になるものが詰まっていると思われます。
ちなみに、アマゾンやネットで見ると、表紙のハーフカバーが外された状態のものが、画像として載っていますが、書店にある場合は、一番下の写真のように、下半分に、机上の写真が写っているものが付いています。
(これを読んで、漫画は描けないまでも、自分の中にもやもやと醸成されているものを、書いてみたくなりました。)
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