製品の未来の姿を発想する思考ツール
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TRIZには、セルフXという概念があります。対象や系が自ら望むような機能を発揮して、問題を解決する、というものです。特許群にそういう構造をもったブレークスルーを見出していくと、更に面白いことがわかります。ダレルマンの教科書的TRIZの本『TRIZ実践と効用(1) 体系的技術革新』のP379に41個の「X」が示されています。同書、図18.6から図中の項目を引用します。
そして終わりには、「その他」のカテゴリについての言及があります。引用します。
また、P380の一文も興味深いものがあります。
以上、セルフXに関する部分を引用しました。
TRIZ「究極の理想解」という発想のアプローチでなかなか理想性の極限の状態は想像しにくいものですが、こういう具体的な実現されたセルフXを適用することで、発想のギャップを超える助け(ある種の、発想のトリガー)になるでしょう。
理想解、というアプローチのステップがやや長いので、発想法としては、すこし敷居が高いと感じる場合、まずは、既存の対象物にこれらの41+5個の理想解がありえないかを、さっと見てみると、技術的な実現可能性の高い理想解が想起できるかもしれません。
例:
例えば、新しい文具を発想したい、という時に、対象として「スティックのり」を題材に取り上げたなら、上記の46個をカードにして、一つ一つ、「これは、のりの理想状態に関係あるな」「ないな」「どちらともいえない」と分けていくことで、発想の手掛かりにできます。
今、実際に頭の中でやってみたのですが、間をちょっと省いて、思いついたことを書くとこんなことが発想できました。
「封筒のふちに糊付けをする時、先に専用ペンで塗りたいエリアをマーク(塗りつぶし)します。その上でスティックのりでなでると、マークしたところにだけのりが付着します。すると机を汚してしまったり、よけいにのりを使うことがない、という良い効果を持たせられます。この機能はちょっと簡単ではないのかもしれませんが、工業ラインの中で実装するならば、もしかしたら、既存の糊塗布工程を簡略化できるかもしれません。(具体的にはもっとつめて考える必要がありますが。)
1.配置する
2.内蔵する
3.調節する
4.試験する
5.電力を得る6.ロックする
7.清浄する
8.位置決めする
9.規動する(※1)
10.支える11.較正する(※2)
12.付加する
13.開閉する
14.補正する
15.密閉する16.除去する
17.粘着する
18.開始/停止する
19.偏移する(※3)
20.調心する(※4)21.加圧/除圧する
22.修復する
23.学習する
24.水平にする
25.時間を測る26.加熱/冷却する
27.穴あけ/ネジ切りする
28.膨らませる
29.混合する
30.破壊する31.伸張する
32.制限する
33.潤滑する
34.ラベルをつける
35.注入する36.発振させる(※5)
37.撹拌する
38.立て直す
39.充填する
40.消火する41.研磨する
42.その他
補足:文頭の数字と※の数字は、石井にて付与。
※1:Regulate:規則正しくなるように調整する。
※2:Calibrate
※3:Bias
※4:Centre(Center)
※5:Oscillate
これらの具体的な例として、P378、379に次の言葉が出ています。抜粋引用します。
物理的な移動に関連・セルフ―アライメント・セルフ―アジャスティング・セルフ―ポジショニング・セルフ―センタリング・セルフ―ベレリング・セフル―オープン/クロージング
非物理的な変化・セルフ―テスト・セルフ―タイム・セルフ―レギュレート・セルフ―リミット・セルフ―キャリブレート
新興の科学知識を利用・形状記憶合金、形状記憶ポリマー(自動 膨張/収縮)・蓮の葉効果(自動洗浄)・相変化に伴うエネルギー蓄積を利用(ひとりでに温める)・遺伝的アリゴリズム、エキスパートシステム(ひとりでに学習)
最近の技術革新・セルフ―バランス(均衡化)・セルフ―シール(密閉)・セルフ―リペア
「その他」のカテゴリーには、一つ二つの参照例しか持たない「セルフ-X」機能が多岐に渡って含まれている。その中には、
42a 鋳込む、
42b 含浸する、
42c 磨く、
42d 照らす、
42e 臭いを消す(!)
などの機能があり、やはり他の問題解決者たちがまだ広くは探求していないような能力(あるいは潜在能力)を表している。
補足:リスト化及び文頭の番号とアルファベットは石井にて付与。
特許データベースに見出される先人たちの「セルフ-X」解決策は、われわれ自身が到達したいと願っている機能を「ひとりでに」提供することを、もうすでに誰かが成功しているかもしれないという事実を十分に証言するものである
このセルフXであらかた発想したうえで「TRIZ理想解」の発想プロセスに入ると、より理解が容易になると思います。(学習は、先に具体、先に効果があって、後に抽象、後に理屈、を話すほうが吸収率がいいという傾向があります。先効後理(センコウゴリ)という学習特性、と私は読んでいます。)
「製品の未来の姿を発想」ということは、これからの社会ではより多くの人がかかわることになる思考技術です。というのも未来が単純な過去の延長線上にない時代にはいりましたので。その時に、セルフXもまた、そうした人々を助ける思考ツールの一つになるでしょう。
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