やはり正解。クラウドでコストを管理して攻めの投資にまわすソフトウェア+サービス
クラウド万歳論は時期尚早、という現実的な認識が広まりつつあること自体は、
非常に喜ばしく思う。なぜならば、マイクロソフトがかねてより提唱している
ソフトウェア+サービスのシナリオと全く同じだから、という俺様目線ではなく
何よりお客様、パートナー様の立場で自社の利益を考えれば妥当な判断だからである。
もちろん、大手企業ユーザー、中堅・スタートアップ、個人企業、ISV、SI'erなどの
立場によりクラウドを見つめる目線は違うだろうが、おおざっぱに言って、新しい
トレンドを無視するわけにはいかないけれど、守り一辺倒の姿勢も許容できないという
ジレンマを抱えているという抽象度のレベルでは、同じ感覚ではなかろうか。
オルタナブログでお世話になっているITmediaの新しい取り組みである
リサーチイニシアチブが企画しているクラウドに関する調査
「企業ユーザーがクラウドに込める本音は?」にのってみたい。
のっけから、しかも、1次情報も確認せずに批判するのは大変おこがましいが、
引用しているIDGのレポートは、その概要を読む限り、一見矛盾を孕んでいるようにも
とらえることができる。CAGR25%で成長するといっておきながら、クラウドの採用は
不要不急なものとして企業が導入費用や専用の人員が確保できないため、後回しにする
という内容だ。では、誰が25%の成長を支えるのだろうか。あるいは、200%くらいの
成長があっても良さそうなところを、25%程度でしかないといっているのだろうか。
それとも、誰の目にも先行きが見えにくい中、2010年以降は積極投資姿勢が戻り、
クラウドへの投資が活発になるということなのだろうか。
「2009年は、ユーザー企業はクラウドコンピューティングに対して「急を要しない
プロジェクト」と位置付けているのです。その理由はIT投資が抑制され、導入費用や
専任の人材を確保できず、結果としてクラウドコンピューティングを活用した
プロジェクトを実施できないからです。クラウドコンピューティングがトピックとして
盛り上がりを見せる一方で、企業は冷静な評価を忘れていません。」
市場規模や成長度を発表しているからには、おそらく詳細なセグメント分析と
エンドユーザーへのインタビューやアンケート結果、他関連市場との兼ね合い等を
緻密に思考した結果なのだろうが、やや違和感が残る。
コストが思ったより高い、というのは正直申し上げて誤解をしているユーザー企業
側にも問題がある。サービス提供を受けるからには、何らかの対価が必要だ。
個人ユーザーや開発者のホビーユースならそれなりな頻度で落ちるサービスレベルを
許容したり、嫌々ながらも広告を受け入れるという案もあろうが、企業ユースでは
そうもいかないだろう。サービスレベルやセキュリティを愚直に考えるならば、
タダより怖いものはない、と早々に気づくはずである。5年10年先の将来のビジョンと
直近でできることは分けて考えるべきである。クラウド万歳ベンダーの請け売りを
素直に聞き入れるべきではない。
コスト面におけるクラウドの本質は、管理・運用の自動化とアウトソースにある。
そもそも、企業におけるIT投資の内容を既存資産のメンテと新規投資の2つに分けた
場合、メンテに8割、新規に2割という分析が少なくない。それぞれの定義にもよるが
各企業の実態は当たらずとも遠からずといったところだろう。
IT投資を抑制したい、と考えるならば、まずは既存資産のメンテコストの圧縮に
取り組むべきである。実際、サーバーの仮想化による統合は多くの企業が取り組みを
はじめているが、コスト削減のシナリオでみた場合、クラウドの採用は、実は仮想化の
延長線上にある。仮想化でサーバー数を減らし、ソフトウェアライセンスを最適化する
ことで保有資産を整理することができれば、契約上かかるコストを圧縮できる。
そして、その運用をアウトソースすることで、さらにCO2排出権を含む光熱費や人件費まで
最適化の範囲を広げれば、クラウド環境を利用するのは自然な発想だ。
すでにお気づきだろうが、クラウドへの取り組みが新規プロジェクト、というのは
あまりにもピントがずれている。本来的には、クラウドの上に構築するサービスが、
新規なのであって、クラウドを利用すること自体は、ビジネス上の問題解決に使う
手段を変えるだけなのである。
そして、そこに充てる人員が確保できないというのもダウトだ。クラウド化することで
基盤の構築・保守・運用に携わる人員は減少するはずである。CIOあるいは経営者、
事業部門側でIT部門からクラウド化するための人員増が必要だ、または人員整理は
許容できないという報告を受けていれば、本人・部下の保身の意図を疑った方がよい。
もちろん、クラウド化の際にソフトウェアの外販や、サービス範囲の拡大などの
業務拡張プランが伴っているのであれば、当然それに必要なリソースの充当は必要で
あるため、頭ごなしに疑ってかかれないという場合には、クラウド化で何が大変なのか
尋ねてみた方がよいだろう。そこで「せっかくクラウド化するのであれば、本社だけで
使っていたシステムを支社、他地域、協力会社、お客様にも広げてゆきたい」という
アイディアを出す部下を持つ恵まれた立場の方々は、その決済を通すべきだろう。
しかし、本当にあらゆる手段を講じてIT投資抑制のブレーキを全力で踏むことで、
負の連鎖スパイラルに陥らずにすむのであろうか。今マイクロソフトグローバルの
社員総会に参加している中で感じるのは、地球上には元気な国、地域、産業があって、
彼らは積極的に投資を続けているのである。自分だけ身をかがめている間に、
世の中が変わってしまう可能性の方が高い。何もしないのは大きなリスクなのである。
我々が"Save customers' money"という意味合いの提案活動を行っている中で訴求して
いるのは、仮想化やクラウドの採用などあらゆる面でメンテコストを削減した余力で、
有意義な新規投資を行ってゆくべきだ、というポイントである。
既存アプリのクラウド化は、現状のP/L、B/S改善に大きく寄与するかもしれないが、
所詮はコスト削減のシナリオに過ぎない。IT投資の抑制がもたらす低コスト体質が
トップライン向上に無関係とはいわないが、かなり遠
回りでもある。
競合との差別化、事業の高度化に必要な投資は、やはりコスト削減の施策とは別に
推進すべきである。ソフトウェアベンダーであるマイクロソフトにできることは
限られているかもしれないが、ユーザーエクスペリエンスの向上がもたらす可能性を
気に入っていただける機会が増えてきつつある。
ユーザーエクスペリエンスは必ずしもトゥイーンアニメーションでチカチカする
見てくれのよい画面を作ることを意味していない。たとえば、キーボードとマウスで
操作するいかにもPCな見てくれではなく、タッチインタフェースの大画面を備えた
壁掛けの新しい情報端末を現場に設置することで、生産性の向上に大きく寄与する
可能性が高いというケースもある。
そこで登場するのが、先日無事RTMを迎えたWindows7のtouch packやReMIXで詳細を
ご紹介したSilverlight3、まだゲーム機XBOX用のプロトタイプでありながら、XNA技術により
PCベースへの展開を渇望されているNatal(廉価なカメラでキャプチャしたユーザーの動きや顔、
声を高度に把握する技術)などである。これらのポテンシャルを発揮することもできる
マイクロソフトのバリュープロポジショニングは、あらゆる局面で興味深くまた強力なものとなる。
日本市場における今年度のマイクロソフトの中の人的観測からすると、ビジネスの中心は
Hyper-V2.0を擁し、VMWare追撃舞台筆頭のWindows Server 2008 R2が予定通りの成功を収め、
Windows Azureは数社の先見の明の高い企業が試験的な導入を行うという年になるであろう。
不景気、というよりは、今後どうなるかがわからない不透明さの高いビジネス環境において、
資産を持たずに仮想化の延長でコストメリットを最適化できる、そして、かつ、エンタープライズでも
十分に実用に耐える Windows Azure は、特にコスト意識の高いお客様のROI改善に大いに寄与し、
Saving customer's moneyのコンセプトを実現する起爆剤になると思われる。
RubyやPythonを愛するサンデープログラマー的ホビーユースは個人的にもわからなくはないが、
プロフェッショナルとして開発業務を請け負っている方々には、是非この機会に今後の主流となりうる
Windows Azureに触れて実績を上げるようにしておいていただきたい。我々としてもグローバルに
先進的な開発者の存在を示すのは非常に嬉しい活動のひとつである。