レーシック体験談;視力回復も嬉しいが、ガッチリ儲かるビジネスモデルに関心した
IT業界関係者は、目を酷使する業務特性から、メガネ率は高いのではなかろうか。
左右とも視力0.04程度の私も連休を利用してLASIK(レーシック手術)を受けてきた。
おかげで術後は2.0と1.5になり、見えすぎて脳が疲れるくらいである。
見え方ははじめてコンタクトレンズをつけたときの感動に近いが、
ものぐさな私にとってケアが不要な爽快感はなにものにも代え難い。
快適さの代償となるのは、行動制約を受ける時間と費用である。
感染症や目が見えなくなるかもしれないというリスクは低いといえるだろう。
行動制約では、目が使えない=PCが使えない=仕事ができないという人も多いと思われる。
実質的には3日ほど予定がクリアになる日程があれば問題ないというガイドをされるが、
さすがに自分の目のことを考えると、手術後はできるだけ目を休めたいものである。
近視になったということは、その原因となる生活習慣があるということで、
PCの画面とにらめっこという生活を続ければ、一度戻った視力も再び悪化するだろう。
結果、へたれな私は連休中、ほとんどPCの画面を見ることができなかった。
自分への言い訳として、液晶の輝度をやや落とし、エディタの画面設定を白背景から
黒背景緑文字にして目へのいたわりを心がけている。
次に費用。おおよそ20万円前後という価格設定が安いと感じるかどうかは困り具合によるだろう。
度が進んでいると薄いレンズ+ちょっとステキなフレームでメガネを作って10万円、
コンタクトレンズでも2年くらいの寿命を覚悟して都度5万円くらいかかるだろうか。
私は正直、安いと感じた。
お世話になったのは品川近視クリニックという業界最大手である。
症例数はなんと世界一で、2008年度約24万件と公表している。
費用は紹介による割引後で17.3万円のプレミアムコースコミコミ価格である。
というやや具体的な数字を聞くと、どのくらい儲かっているのか気になってしまうのが悲しい性。
価格設定には廉価版の13.3万円というコースもあるのだが、検診時のコミュニケーションで
こちらを選ぶにはかなりの勇気が必要な営業トークシナリオになっている。
具体的には経験数の少ない医師が、メンテナンス頻度の比較的低い機材で手術を行い、
保証期間も若干短く設定されている。この説明を5-6人のグループで受けるのだが、
他のみんながプレミアムで、と答えてゆくことでプレミアムが当然という空気感が
醸成される中、本当によいのですか?と念を押されつつ、廉価版を選ぶのは難しい。
倍以上となれば考えてしまうが、安心感を差額の4万円で買えるとなれば、絶妙な価格設定だ。
さて、17.3万円で約24万症例をこなすと、単純計算で売り上げは400億円を超える。
2005年の開業以来公表されている症例数では、CAGR 113%で、このままの成長率を保てば
2009年は50万症例を超え、売上は900億円に近づく。
900億円は達成できるかどうかわからないので、2008年度の約400億円の売上をどのような
コスト構造で支えているか、公表されている数字から軽く計算してみよう。
安心感を提供するために、こんなにたくさんの専門スタッフが在籍しています、
という人数がガイドブックに示されていて、眼科専門医が122名、看護師が110名、
受付スタッフで136名、検査員が199名、レーザーテクニシャンと呼ばれる技師が74名、
その他含め720名とされている。先生は若手の方も多そうなので2000万円、
他のロールの方々を400~800万円の年収としても、年間60億円ちょっとしかかからない。
従業員1人あたり売上高は5700万円と高レベルである。
人件費の次にかかりそうなのが機材。検査用の機材もかなりの数用意されているが、
最も根が張りそうなのは米国:イントラレース社製イントラレースレーザーと、
ドイツ:ウェーブライト社製エキシマレーザーである。それぞれ、1台10億円で
5年償却(2億円/年)、各10台としても財務上の費用負担は40億円程度である。
レーザーの台数誤差や保守費、その他検査機材含めても年間100億円もあれば
素人目には十分そうに見えてしまう。
品川近視クリニックは立地もよい。有楽町駅前ITOCiAのオフィスタワーを
3フロア占有している。13~15Fで事前検査・受付フロア、検査フロア、
手術フロアに分かれており、衛生面にも配慮しているのだろう。
ざっとみてみたところ建物的に1970平米/フロアということなので、坪単価は
わからないが高くても5万円で年間10億円程度。
そして、ビジネスモデルで特徴的なのが充実した紹介制度である。
紹介された側、した側双方に還付金が発生する仕組みで、あわせて1人あたり
5万円程度という高配当に設定されている。一見胡散臭そうに見えてしまうが、
安心感が必要な決断を知り合いからの紹介で醸成する、商品特性に合わせた
うまいモデルといえる。この魅力的なモデルで手術した人が平均0.5人を
紹介したとして、必要となる販促費は60億円程度だろうか。
ここまでの乱暴な概算で、230億円。400億円にはまだ170億円足りない。
広告宣伝費や教育研修費などにがんばってつぎ込んでも余るだろう。
自分が眼科医なら、ここで働いてみようかと思ってしまう。
このレーシックというビジネスが市民権を得てきたのはここ数年のことだが、
市場原理としては寡占が起こりやすい仕組みである。
記憶に新しい銀座眼科で起こった感染症のおかげで、この品川近視クリニックを
はじめとする真っ当なクリニックはますます儲かっているのではなかろうか。
症例数が多い=(安心感がある+単価を低く設定できる)ために、
規模が大きくなればなるほど商品面、価格面で優位性を築きやすいのである。
IT業界も若干似たところがある。
少し前まではソフトウェアやネットサービスを中心に一攫千金的な雰囲気もあったが、
最近ではスタートアップも巨大陣営のどこかに買収されることを現実的な着地点
としている趣が強い。この傾向はクラウド化することでさらに強まる可能性がある。
クラウドビジネスは規模の経済が成功の鍵となりやすいため、商品面、価格面の
優位性を築くねらいで買収、淘汰を繰り返し、数社の寡占状態になるだろう。
我々もそのようなポジションをとれるよう、がんばりたいところである。
目がよくなったことで、ついヘッドアップディスプレイを買ってしまいたくなる
今日この頃。物欲過多な方は術後の誘惑にお気をつけいただきたい。