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クラウド戦役をZガンダム視点でわかりやすく解説するブログ+時々書評。

現場力、再び。

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このままだとただのガンオタだと思われてしまいそうなので、今回はビジネス書を紹介することにします。
先日出版された遠藤さんの「現場力復権」にちなんで、「クラウド時代の現場力」をコンサルタント視点で考えてみたいと思います。

私がローランド・ベルガー在籍時に遠藤さんが出版した「現場力を鍛える」。すでに27刷を重ね、多くのビジネスパーソンに受け入れられています。
遠藤さん自身は、その要素を「共感」と「不安」にあると分析しているようです。

この不安に満ちた状況は、とかく「現場力」に関心の高い製造業やサービス・流通業だけでなく、IT業界でも同じです。クラウド時代、中途半端なシステムインテグレーターやソフトウェアベンダーは存在できなくなるのではないか、正解。

主導権を握るのがGoogleになるのか、マイクロソフトになるのか、ほかの連合陣営になるのかはわかりませんが、多くの人々が期待するレベルの低コストと高可用性を兼ね備えたクラウド環境が浸透する近未来では、システムごとにハードを調達、ラックにくみ上げてOSからミドルウェア、アプリまでセットアップしてカスタマイズしてテストして、自前のデータセンターに専任スタッフを置いて、バックアップテープは自前の倉庫に7年間保管して…というこれまで当たり前だったモデルは、よほど他人に任せられないごく一部のシステム以外、経済合理性の観点から、存在し得なくなります。

競争が変わればルールが変わり、ルールが変われば勝ち方が変わるのです。

ついでにもう1冊紹介します。
ドイツを本拠地とするローランド・ベルガーの東京オフィスでは、自然と両国の主要産業である自動車産業のお仕事が多く、その知見を当時の自動車戦略チームがまとめて「自動車産業勝者の戦略ガイドブック」という書籍を出版しました。

この中に、IT産業におけるクラウド変革に似たビジネス状況をみることができます。
クラウド時代に何が起こるのか、自動車産業における「部品のモジュール化」をケーススタディとしてみてみましょう。右肩上がりの需要と完成車メーカーとの縦のつながりに支えられてきた国内部品メーカーですが、部品のモジュール化(および標準化)が進展することで、ボッシュやデルファイ、ビステオンなどのグローバル部品メーカーとの競争が熾烈となり、コスト競争力か高付加価値化のどちらかにコア・コンピタンスを見いださなければ生き残れない状況になりました。その実現には下記4点が重要であるという提言のとおり、M&Aによるコア・コンピタンス獲得競争、業界再編が起こってゆきます。

1.グローバル部品供給力
2.コスト管理力
3.開発における高度ソリューションプロバイダー能力
4.自動車メーカーのモジュール・マネジメントに対応したワンストップ対応能力

この中で、3と4についてクラウド時代のIT産業で考えてみましょう。
完成車メーカーにあたるクラウド提供企業が、Salesforce.comのようにプラットフォームだけでなく自前の業務アプリまで持ち合わせてしまう場合、一般的に考えてシステムインテグレーターやソフトウェアベンダーとしては、ビジネスがやりにくく(期待する利幅が低く)なってしまいます。

その場合、どのプラットフォームでも稼働する高い専門性を持ったコア機能を提供するか、
いずれかのプラットフォームで提供されるリソースの優位性を熟知した上で、業務要件にすりあわせてゆくワンストップ対応能力を身につけるか、どちらかの立場をとり、他社との優位性を獲得するといった戦略オプションがありそうです。

また、クラウド時代には特に小規模のソフトウェアベンダーにはこれまで獲得が難しかった1と2のケイパビリティを手に入れやすくなる点も重要です。さまざまなクラウドプラットフォームで稼働するコア機能を先んじて実用化することが出来れば、ビジネスが大きく広がる可能性があります。自動車部品でいうところのブレーキバイワイヤや燃料電池にあたるようなキーとなる部品モジュールを、クラウド上に見いだすことが出来るかが勝負となります。

ただ、競争のルールが変わるとき、どこかから天才が現れて、運良くコア技術を見つけられればよいですが、祈っているだけで事態が好転することはありません。
変化の時代に頼りになるのは、IT産業でも変わらず現場力なのです。

「現場力復権」でさまざまな事例を紹介した後、最後のまとめで、遠藤さんは現場力の要素を下記5つであると締めくくっています。
1.問題解決力
2.連結力
3.俊敏力
4.臨機応変力
5.粘着力
最後の粘着力、というのが遠藤さんっぽいというか、現場力のキモなんですね。

現場力を高めるために最も重要なことは「徹底と執着」であり、現場主導の「カイゼン」を組織の「くせ」に昇華されるまで徹底的に「しつけ」をする必要があると説いています。「現場力復権」のインタビューに答えている現ミニット・アジア・パシフィック社長の石黒さんとお仕事したこともありましたが、やはり彼も「不文律」という言葉を好んで使っていた記憶があります。

そして、現場力向上の取り組みで「しつけ」のターゲットとなる、最もねばちっこく取り組むべき人々は組織の中核となるミドルマネジメントです。部長さんはちょっと上かもしれませんが、「Zガンダム」にピンとくるみなさんは年代的に課長さん、主任さんが多いのではないかと思います。

部下や協力会社さんをうまくリードして仕事を進める方々が「火の玉」になってエネルギーを発散し続けられれば、非常に大きな競争優位が生まれます。

指示されなくても積極的にカイゼン、提案ができる素地を持った日本企業の文化って、Job Descriptionがすべての外資企業からすれば脅威なんですよ。本書でも、視察に来たフランス国鉄総裁が最も驚いたのは、JR東京駅でたった10分で新幹線社内清掃をこなすスタッフの現場力だったというくだりがあります。

クラウド時代に、組織として、あるいは個人として、どのようなコア・コンピタンスを身につけてゆくべきなのか、幸いまだ時間に若干の猶予がありますので、是非現場の知恵をひねり出してみてくださいませ。今後IT産業が混沌とする中で、みなさん以上にトップマネジメントはどうすべきかわからず、本心戸惑っているはずです。

もしこのブログをトップマネジメントの方々が読んでいたら、組織の熱伝導率を変えられるのはトップのコミットメントであるということを改めて認識していただければ幸いです。

「現場力を鍛える」「見える化」「ねばちっこい経営」を読んでなくても理解しやすい内容ですので、書店で見かけたら手にとってられることをおすすめします。

さて、どこがZ視点…、と思われる方、タイトルにお気づきでしょうか。
そう、14話でアウドムラを襲撃するアッシマーに輸送機をぶつけるあのシーン。
「下がっていろ、シャア!」
「何をする気だ、アムロ!」
「アムロだと!?」の14話タイトル、「アムロ再び」でした。

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