Above the Clouds にみるクラウドベンダー選定基準
前回に続きクラウド関連の文献を紹介したい。
Above the Clouds というUCバークレイの論文である。
2/10に発表されて以降、さまざまなブログで引用されている。
Reliable Adaptive Distributed Systems Laboratoryという分散システム研究のメンバーが執筆しており、
マイクロソフトもファンディングメンバーとしてGoogleやSun Microsystemsと共に名を連ねている。
英語を読むのが面倒な方でも、ざっと目を通しておくべき有意義な表がいくつかある。
例えば、本文中の表4では、Amazon Web Services と Windows Azure とGoogle App Engine の比較を
コンピューティング、ストレージ、ネットワークの軸で整理してくれている。
Force.comやBlue Cloudの記載はないが、ベンダーが積極的に比較表を作りたがらない現状、
客観的に一覧で全体を把握したい場合に助けとなるだろう。
また、表5では、Jim Gray (Microsoft Research) の論文をアップデートしてCPU、ストレージ、ネットワークの調達コストを
2003年当時と、2008年現在で比較した上で、さらにAmazonの単価を併記している。
自分で所有するか、クラウドのリソースを使うべきかという議論で、早期にクラウド側に持ち込みたい
という場合には「お買い得感」を強調する上で使えるかもしれない。
続く表6には、クラウドコンピューティング普及の課題がまとめられている。
これは、どのクラウドベンダーを選定するかという基準になるだろう。
いずれも現状や短期的に解決できるものではないため、今後激化するクラウドベンダー同士の競争の中で、
これらの課題を解決するための技術力と資金力に勝るプレイヤーは誰か「勝ち馬を見極める」先見の明が必要だ。
1. サービスの可用性
2. データの囲い込み
3. データの機密性と監査性
4. データ転送のボトルネック
5. パフォーマンス予測の不確実性への対応
6. ストレージのスケーラビリティ
7. 大規模分散システムにおける不具合対応
8. 迅速なスケーラビリティ拡張
9. サービス悪用による連帯責任の回避
10.ソフトウェア・ライセンシング形態
この論文の中では、Amazonに関する記載最も詳細になされている。
一見Amazon贔屓に見えるかもしれないが、そうではない。
Googleもマイクロソフトもまだ情報を意図的に出していないだけである。
先行者利益は確かにあるだろうが、突出しすぎると戦力は続かないものである。
索敵により戦力分析できれば、後発ベンダーは容易に攻略できる。
論文中にデータセンター運営の地域別コストの表も掲載されているが、
クラウド戦役は基本的には規模の経済の戦いとなるだろう。
大規模なデータセンターを作り、電力を安く調達して、効率的な運営が出来るのはどこか?
革新的かつ独占的なな発電・冷却技術でもあれば別だが、国力に勝る軍勢に分がある。
そのような地合の場合、たとえどんなに優秀なニュータイプ兵器を投入できたとしても、
圧倒的な物量の前に太刀打ちできないのが現実だ。キュベレイも取り囲まれて物資が切れれば終了である。
残念ながら、無双シリーズのようにことは進まない。