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日本企業がDX(デジタル・トランスフォーメーション)を正しく進めるために必要なキーワードについて考えます。

ソーシャルな社内コラボレーションで社員を活性化、高業績を続けるテラス

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テラス TELUS は、カナダ第二位の通信事業者である。バンクーバーに本社を置き、従業員は41,000人。売上は109億カナダ(CA)ドル約1兆6百億円)、EBITDAが40億CAドル(売上比36.4%)、営業利益が21億CAドル(営業利益率19.3%)と業績は非常に好調である。

ちなみに日本のソフトバンク(2012年度)の売上は約3.3兆円、EBITDAが1.1兆円(34%)、営業利益が7450億円(営業利益率22%)なので、ソフトバンクのほぼ1/3の規模といえる。

02_2コーポレート・スローガンは「The Future is Friendly 未来はフレンドリー」で、動物や花など自然なテーマを使ったマーケティング広告で知られる。また「Putting YOU First お客様第一」を掲げ、顧客志向を強調している。

右:テラスのアニュアルレポート2012年版の表紙→ 

携帯回線(ワイヤレス)と固定回線のビジネスが売上のそれぞれ半分近くを占めているが、ほかに高速インターネット回線やインターネットTVなどのサービスも提供している。03


テラスのネットワーク(同社アニュアルレポート2012年版より)

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テラスは、2013年初から、ソーシャル・コラボレーションツールSAP Jamの導入を開始した。

Jamについては「社内外を巻き込んだコラボレーションでイノベーティブな製品を送り出し続ける3M(スリーエム)」でも概説したが、下記に再掲する。

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ものすごーくざっくりとした表現をするならば、Jamビジネス版Facebookみたいなもの、だ。個人ごとに「タイムライン」があって、自分に関連のある投稿が時系列で表示されていく。

ただし個人としての投稿ではなく、「Facebookグループ」にあたる機能がむしろメインとなっており、大半の投稿はいずれかのグループに対して投稿され、するとそのグループに所属している他の社員のタイムラインにそれが表示される。

ビジネス上のあらゆるトピック(「お客様A社アカウントチーム」とか「新製品B開発・マーケティングチーム」「石油化学業界の情報共有」「半蔵門近辺のおすすめランチ」...)に対してグループを立てることができ、そこへ投稿した情報はグループメンバー全員と共有でき、グループおよび会社の共有資産として残り、キーワード検索もできる。

メールでのやりとりと違い、グループに参加している限り確実に情報が共有されるし、後からそのグループに参加した場合でも過去情報を共有することができ、逆にグループメンバー以外には情報が出ていく心配もない。

最大のポイントは、やりとりの経緯が追えるということである。いつ誰がどの情報に基づいてどんな意思決定をしたのか?の経緯が明確になることで、たとえば営業担当者が異動して引き継ぎが起きた場合でも、前任者の時代にどういう経緯でこの話になったのが?がわかる。

メールはこのあたりがすべて個々人のメールボックスに閉じてしまうため、コラボレーションには本来不向きなツールなのである。(一方でシークレットな1対1のコミュニケーションにはメールが向いている。)

さらにJamの場合、社員以外の外部のヒト、お客様やパートナー企業なども、メンバーに加えることができる。もちろんアクセス権管理には気を使う必要があるが、テーマによってはお客様やパートナーをグループメンバーに加えることでさらなるコラボレーションが促進される。

 

同社がJamを導入した目的はなんだったのか?そしてその成果は?以下、同社のダン・ポンテフラクト氏(ラーニング&コラボレーション責任者 Head of learning and collaboration)によるプレゼンから抜粋してお伝えする。

http://events.sap.com/sapphirenow/en/session/4714

01ダン・ポンテフラクト氏

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私はTELUSのラーニング&コラボレーションの責任者です。企業文化、リーダーシップ開発、ラーニング、コラボレーション戦略などを担当しています。

人は、同僚たちとつながっていないと、ヒエラルキーの世界にいると感じ、単なる組織の歯車であるかのような気分になり、会社・組織と関わりの薄い人間だと思えてきます。そして組織内で心理的に孤立してしまい、何もできなくなります。これは大きな問題です。

いくつかデータをご紹介しましょう。人事コンサルティング会社ギャラップによる、組織と社員のエンゲージメント(関わり)についての調査によると、「自社の長所を挙げることができる、職責外の業務でも進んで引き受ける、この企業で今後も働き続けたいと思っている」、といった、会社とのエンゲージメントが高い社員の割合は、この10年間、ほぼ30%前後で推移しているそうです。たった30%です。言い換えれば、社員の7割は、会社とのエンゲージメント度合が低いかあるいはゼロだということです。

エンゲージメントが低いあるいはゼロの社員、とはどういうことでしょうか。それはたとえば、単なる組織の歯車に過ぎないと感じ、職責以上の業務をやろうとしない、ということです。そうした社員を、金額に換算するとどうなるでしょう?

ギャラップによれば、会社とのエンゲージメントが低い社員によって、米国だけでも年間約3,700億ドル(約37兆円)が浪費されているとのことです。実に3,700億ドルです。

一方エーオン・ヒューイットの調査では、従業員の約40%が低いエンゲージメントを示しており、そうした社員によって1人当たり年1万ドルの利益が失われているとのことです。ということは、たとえば従業員3万人の企業では、社員の40%は1万2,000人、掛ける1万ドルでは1億2千万ドル(約120億円)の利益が消えているという計算です。

このように、社員のエンゲージメントの低さが会社業績に与える大きなインパクトは、ギャロップ、エーオン・ヒューイット、ブレッシングウェイ、ヘイ・グループなど人事系コンサルティング各社による調査結果が共通して証明していることです。

それでは、テラスでは?2008年、テラスの全社員数は4万人でしたが、テラスにおけるエンゲージメント指数は53%でした。指数が53%ということは、大まかに言って、社員の約20%が、エンゲージメントが低いかゼロということになります。

もし、皆さんが当時のCEOダレン・エントウィッスル(Darren Entwistle)だったら、この低さは会社の収益にとって大きな問題だと考えておかしくないのではないでしょうか。

テラスのマーケティングにおけるキャッチフレーズは「The future is friendly.(未来はフレンドリー)」です。しかし、社員のエンゲージメントに関する調査結果を見て、実は社内では「未来はフレンドリー」ではないことに気付きました。

そこで、テラスは大きな方向転換を行いました。コラボレーションを組織文化として浸透させる方法を検討し、対策を実行したのです。

2008年の夏のことです。IT部門がFacebookを禁止していることにCEOのダレンは気付きました。その時彼は、表立って怒ることはありませんでしたが、内心では非常に怒っていたでしょう。なぜなら、組織内部のコラボレーション・ネットワークや組織外部のFacebookを通じてこそソーシャルの力は発揮される、ということを知っていたからです。ダレンはFacebookの使用を認めました。また並行して、コンフルエンスというWiki・ブログベースのプラットフォームも使い始めました。これがTELUSのコラボレーションツール探究の始まりでした。

テラスは現在4万人のチームメンバー(社員)を抱えており、さまざまなソーシャルツールを使っています。たとえば、Twitter、Buzz、YouTube、Habitat Video、Second Life、TELUS Collaboration House、ゲーム、対話型ラーニングなどです。これらのツールは、チームメンバーがいつでも使える状態になっています。

その結果どうなったか?テラスの2008年秋の会社へのエンゲージメント指数は53%でしたが、現在は、なんと80%です。これは当社のような大規模なカナダ企業としてはナンバーワンです。ちなみに当社には組合があり、チームメンバーのうちの約1万3,000人が加盟していますが、エンゲージメント指数における管理職と組合員の差はわずか2%しかありません。

53%から80%に上昇すると、どんなことが発生すると思いますか。先述のとおり、ビジネス上の効果です。

たとえば3年前の消費者市場において、当社の顧客満足度は62%でした。現在は74%です。まだ十分ではありませんが、正しい方向に向かっています。社員は職場で刺激を受け、「顧客第一」というスローガンを遂行し、さらに顧客のためになる変化を探究しています。社員同士が互いに競争するのではなく、ライバル企業と競争しながら、一緒に働き、顧客満足度をさらに80%半ばから後半まで引き上げようと努めています。

テラスは今日、ソーシャルな力と共存する企業になっています。持っているツールはすべて効果的に使われていますが、われわれはウィンストン・チャーチルの「向上とは変化である。そして完璧になるとは、継続的に変化し続けることである」という言葉に従い、昨年末にはSAP SuccessFactorsJamを購入することを決めました。Jamはモバイル機能が大幅に強化されており、モバイルによるシームレスなエクスペリエンスによって、コラボレーションがますます使いやすくなっています。

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ポンテフラクト氏のJamの画面イメージ(↑上 ↓下とも)

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Jamは当社の戦略を補足するだけでなく、組織内の活動をも補足して、社員の行動をよりオープンに変えます。結果、生産性や事業成績が上がります。

たとえば当社の株価は2008年11月には29ドルでしたが、3週間前には71ドルまで上昇し、そこで株式分割を行いました。

ソーシャルなツールの存在と、組織へのエンゲージメントを深め、ソーシャルにつながりを持ち、コラボレーションに前向きな社員、そして企業業績向上の間には、確実な因果関係があるのです。

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下のグラフは、Yahoo Financeで2008年から2013年5月までのテラスの株価を表示したものである。なるほど、ポンテフラクト氏が自慢げに語るのもわかる。見事な株価の上昇っぷりである。

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テラスの株価の推移(2008年12月29日~2013年5月13日)。出展:Yahoo Finance

多くの企業が、社員を活性化し、結び付け、エンゲージメントを高めることに苦労している。社員はしばしばサイロに閉じこもり、タテヨコのコミュニケーションは分断され、それが企業業績にも悪影響を及ぼしている。

テラスではこれを解決するため、テラス・リーダーシップ・フィロソフィー(TLP)というイニシアティブを立ち上げ、オープンでコラボレーティブな企業文化の推進をはかり、またそれを支援する多くのソーシャル系ツールも取り入れた。その結果は上図のとおりであるが、さらにこの方向を強化するためにSAP Jamが採用された。

従業員のコラボレーションは、すぐにはカネに結び付かない、という意見も多い。おそらくコラボレーションの「ツールだけ」を入れても何も起きない、のはその通りだろう。コラボレーションを促進する文化や活動とセットで取り入れ、従業員の行動が変わり始めたときに、初めてなにかが起きるのだ。さらに言えば、そうした文化や従業員の行動を変えるための触媒としても作用するツールが望ましい。

ちなみにテラスの株価は、2013年5月の株式分割後にいったん落ち込んだもののまた上昇に転じ、2014年に入ってから上場来最高値を更新している。テラスの未来は、従業員にとっても、フレンドリーなものになっていきそうだ。

 

※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、テラス社のレビューを受けたものではありません。

【参考リンク】

 

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