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「予測不可能なサプライチェーン」をアリバ・ネットワークで構築、被災者支援に即応するアメリカ赤十字

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「効率的なサプライチェーン管理」は、あらゆる企業において必要不可欠な存在になりつつあるが、一般企業とは違った形で、さらに難しいサプライチェーンを要求されている組織がある。それがアメリカ赤十字社 American Red Cross である。

なぜ難しいのか?そしてアリバ・ネットワークはそれをどのように支援しているのか? 

Ariba Live 2013における ジル・ボッシ氏(アメリカ赤十字 バイスプレジデント&CPO:最高調達責任者)の講演が感動的にすばらしいので、ほぼ全文を書き下しつつご紹介する。(わかりやすい英語なので、ぜひオリジナル動画(下記)も観ていただきたい。)

 
Ariba LIVE 2013 Keynote: Jill Bossi, American Red Cross

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赤十字のサプライチェーンの特徴は、一般的な他の組織と違って、「事前に計画・予測することは不可能」ということです。また輸血用の血液については最長42日しか持たない、という特徴もあります。

10私の仕事は、アメリカ国民のみなさんが寛大にも寄付してくださったすべてのお金を有効に使うことです。そしてITは、基金を1ドルでも有効に使い、あるいは次の災害に備えて残しておくことを助けてくれます。

アメリカ赤十字は、毎年7万件を超える災害に対応しています。昨年10月のハリケーン・サンディのような大災害もあれば、一軒の火事のような小さなものもありますが、被災者にとっては「小さい」災害はありません。どんな災害であろうと、被災者は大きな打撃を受けています。そうした人たちにすばやく寄り添い、復帰を助けるのが赤十字の役目です。

こうした人道支援のサプライチェーンをいかにして維持・運用するか?は赤十字にとっての最大のチャレンジです。なぜなら「事前に計画・予測することは不可能」だからです。

ハリ11ケーン・サンディがどのくらいの被害をもたらすかを事前に知ることはできませんし、いつどこを大地震が襲うかわかりません。いつどこで何がどれだけ必要になるかまったく分からないでもひとたび災害が起きたらそれに迅速に対応する、そういった特殊なサプライチェーンが我々には必要なのです。

赤十字ではサプライチェーンを「ニーズが発生してから必要なくなるまでの間の、モノ・サービス・情報の流れのすべて」と定義しています。そして我々は「これは範囲外だ」とは絶対に言わないようにしています。なぜなら、ひとたびそうすれば、どこかでそれを必要としている人にそれが届かなくなるからです。

この目的に即し、我々のオペレーションは「3つのS」と表現されます。シンプルシステムシナジーです。 

  • まず我々のサプライチェーンは、シンプルで、誰にでも扱えるものでなくてはな りません。なぜなら、現場における赤十字の活動の主力は、50万人を超える登録ボランティアたちだからです。慣れていない彼らでも現場ですぐに使えるものでなければなりません。
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  • 情報システムはもちろん必須です。システムとネットワークがなければ、我々は効果的に活動することはできません。
     

  • そしてシナジーとは、赤十字と他の組織との協働です。赤十字だけですべてのニーズに応えることはできませんから、他の組織やNPOと効果的に協力し、互いに補完し合って進める必要があります。

そして3Sの結果として、セービング(節約)が実現されます。我々はみなさんからの寄付によって運営されていますから、その貴重なお金を、できる限り有効活用する必要があります。みなさんから見て、赤十字は寄付金を有効に使っている、ということがわかる必要があるのです。

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たとえば昨年のハリケーン・サンディ。みなさんの記憶にも新しいところだと思いますが、赤十字では、避難宿泊所のべ8万1千泊、食事や軽食1,700万食、衣類や毛布や替え下着などなど各種の「応急パック」を700万セット、そしてボランティアと社員をのべ1万7千人動員。

1162州にわたり900平方マイル(注:約2,300平方キロ、東京都の面積より少し広いくらい)をカバーしました。これがどれだけ広いか、ご想像いただけるでしょうか。

サンディは2012年10月29日の夜8時に上陸しました。それから72時間の間に、アメリカ赤十字はトラック471台分の物資を被災地域にあるローカル倉庫に輸送し、また515枚の発注書をアリバ経由で発行しました。

そしてこれらすべての輸送が、オンラインで数時間のうちに把握できた、ということは我々にとって本当に劇的な変化でした。非常事態に対応するサプライチェーンを運用管理する立ち場からすると、何をどこへいくつ発送したか、それがどこまで届いているのか、が分かるというのは非常に大きな意味があります。

04たとえば。サンディのような大規模災害では、我々は現場近くに臨時の倉庫を手配します。そこにいるスタッフから、「我々が依頼したアレとコレは今どこだ」と問い合わせが入りました。

そこで赤十字のITスタッフはアリバの画面からその物資を手配したサプライヤを確認、トラックの運転手の携帯電話にかけると、運転手は「すでに現場に到着していて、荷降ろしの順番を待っている、トラックの順番は27番目だ」と。そこでITスタッフは現場スタッフに「急ぐなら27番目のトラックを見つけて、列の一番前に持っていけ、そうすればすぐ荷降ろしして使えるから」と指示できます。 

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災害サプライチェーンでは、いつ、何が、どこで必要になるか、はわかりません。そんな状況で、どうしたらマネージできるというのか?

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これを考えるにあたっては、まず、赤十字に求められている役割をしっかりと認識することが重要です。現場にいるのは我々だけではありません。自治体の諸機関も、NPOも、企業もいます。そうした組織との役割分担をしっかりと意識したうえで赤十字に求められている役割を果たすことです。

20同様に、パートナー企業との協働も重要です。さきほど食事提供の話をしましたが、たとえばNPOの中には巨大なトレーラーキッチンを持っていて、被災地に派遣してくれるところがあります。彼らと連携を取り、また食材のサプライヤーともアリバを通じて連携して、食材を手配し、トレーラーキッチンに届けて調理してもらい、それを被災者に届ける。そうしたコラボレーションも必要です。

また運送手段の手配も決定的に重要なことは言うまでもありません。災害というものは、えてして都合の悪いときに起こるものです。金曜日の夜、とかね。州を超える輸送を手配するというのは、時として大変なチャレンジですが、我々はそれをいつでもやれなければなりません。

また我々のサプライチェーンの特色は、モノの寄付もあることです。オムツとかバケツ、シャベル、モップ、などなど。そうした寄付物を、スムーズにサプライチェーンの中に取り込めることが必要です。

05赤十字にとっての「サプライヤー」はたいていの場合、同時に赤十字の活動への支援者、寄付者でもあります。我々は多数のサプライヤーと全国をカバーする緊密なネットワークを築いていますが、同時に、被災地やその周辺の地元サプライヤーからできるだけ調達することで、現地の経済復興にも貢献したいと考えています。

そして、災害が発生してからの調達。我々は日頃から、できる限り多くのサプライヤーと幅広く関係を持ち、非常時にスムーズに物資が調達できるようにしています。しかし一方で、大規模災害においては、地元のサプライヤー自身もまた被害を受けていることも多いのです。したがって、全国の誰からでも調達できるというネットワークを築いておくことが必要なのです。

さきほど申し上げましたように、効率的なサプライチェーンを構築し、寄付金と物資を有効に活用するうえで、ITはもはや贅沢品ではありません。必要不可欠なのです

我々は基幹システムとしてはオラクルを利用しており、サプライヤーネットワークではアリバ・オン・デマンドを利用しています。アリバは調達側と配達側の両方で、すべての発注、カタログ、サプライヤ管理、契約管理を行っています。

30ITは赤十字の活動にリアルタイム性と透明性をもたらします。以前は100%紙ベースで行っていた処理がシステム化されたことにより、たとえば2012年のハリケーン・サンディ災害のときには圧倒的な効果をもたらしました。いつ、どこへ、どれだけの物資が届きつつあるのか?の情報が、何週間も後になってではなく、リアルタイムに把握できる、というこの能力は、我々にとってまさにゲームチェンジャーです。

また現場での情報アクセスをより改善するため、タブレットやスマホの導入にも力を入れています。さらにできるだけ多くの被災者に早く正確な情報を伝えるため、TwitterやFacebookなどのオンライン・コミュニティも活用しています。

03またアメリカ赤十字は、年800万ユニットの献血を集め、全米に供給しています。これは全米の輸血のおよそ4割を占めています。

輸血のサプライチェーンの特徴は、採血された血液は、最長42日間しか保存できない、ということです。つまり向こう2か月の需要に合わせて供給していかなくてはならないのです。

献血はもちろん、法律によって厳しく規制されています。こうした規制の中で、資金を有効に使いつつ、輸血を必要とする患者に血液をいつでも届けるのが、我々の使命なのです。アメリカ人の中で献血をしたことがあるのはわずか5%です。みなさんも、ぜひ次回はご協力ください。

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いつ、どこで、何が、いくつ必要になるか、が誰にも分からないサプライチェーン。

一般企業の一般的なサプライチェーンから見れば、ほとんど悪夢としか言いようがないが、しかしアメリカ赤十字にとってはまさにそれこそが日々求められているものなのだ。

そして実のところ、アリバ・ネットワークは、アメリカ赤十字には非常に適している。あらかじめ多数のサプライヤとカタログを登録しておくが、普段は何も流通しなくてよい。それがイザというときには、その時点で供給可能なサプライヤから、可能な限りの数量を、いつまでに、どこまでに...とネットワーク上で指定していく。突如として巨大かつ多品種な「サプライチェーン」が発生するわけだ。

別のインタビュー(下記)で、ジル・ボッシ氏は以下のように述べている。

アリバ・ネットワークを1年半ほど前に導入して以来、私たちの仕事の仕方と効率は劇的に変わりました。創立以来130年以上にわたって、アメリカ赤十字は手作業で調達をやってきたのです。紙と、電話で。

しかしアリバ・ネットワークを導入したことで、われわれはこれまで取引がまったくなかったサプライヤーを含めて事実上全米のあらゆるサプライヤーに一斉にコンタクトし、我々が求める物資をもっとも早く、安く供給できるところから調達することが可能になったのです。

 
Humanizing the Supply Chain: American Red Cross at Ariba LIVE D.C. 2013

大規模災害の場合、被災地側が極度に混乱している、のはわれわれ日本人にも記憶に新しい。必要な物資が届かなかったり、逆に届きすぎて倉庫に山積みになっていたり。そうした混乱も、「物資がなにもないよりはマシ」ということで、サプライチェーンの混乱それ自体が問題視されることは少なかった。まったく想定していなかったところで不意打ちを食らった以上、多くの混乱があるのはやむを得ない、という空気が大勢であったように思う。

しかしそれは本当に「想定外」だったのか?政府や自治体などにとって、「想定外」の一言で片づけてよいことなのか?すくなくともアメリカ赤十字は、その課題自体に日々チャレンジしている。

アリバ・ネットワークが向いているというより、むしろそれがなかった2年前には、「紙と電話」でどうやって処理していたんだろう?と思わずにはいられないが... しかし、こうした人道的な用途にアリバ・ネットワークが使われていることを、同僚の一人として誇りに思う。

ちなみにAriba Liveでは、この講演の最後にアリバから、1万ドルの小切手が寄贈された(下の写真)。「願わくばこれが、赤十字による紙ベース処理の最後の1枚になりますように(笑)」とのコメントとともに。

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※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、アメリカ赤十字社のレビューを受けたものではありません。 

 

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