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SAP Helps 南アフリカ Run Better ~(4)プロジェクト開始

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今回、私たちSAPチームに対するアウェトゥからの依頼は、「アウェトゥの地理的な拡張に関する提言」だ。

Sa0304アウェトゥは起業家支援(インキュベーター)企業なので、自社の業績あるいは成長をはかる尺度(KPI)としては、「実際に起業家として独り立ちさせた人数」を主にカウントしている。アウェトゥ自身はNPOではなく営利企業なのだが、今のところはコーポレート・スポンサーからの支援と政府からの補助金を主な財源として運営しており、事業採算(利益)は現時点ではあまり気にしていない。

現時点で送り出した起業家は512人(!)。すでに2013年2月に始まった会計年度の目標は大幅にクリアしているとのことだが、今後はさらにペースを上げ、2014年2月からの2015年2月までの1年間でさらに1500人の起業家を生み出すことを目標にしている。となると、現在のざっと3倍近い”生産能力”を持たなくてはならない計算だ。

■「走りながら車体を作る」

スタートアップ企業といえば、最初は創業者ひとりの情熱とビジョンに始まり、それに賛同するメンバーが集まってコアチームを形成し、さらにメンバーが集まって...という形で走り出すものだが、アウェトゥもまた、全力疾走を続けている。

2013年の年初はメンバーは6人だったのが、今は51人(!)。これだけ急成長していれば、おそらく社内の業務プロセスもこの10か月の間に2~3回は変わっているだろう(6人ではたいした役割分担もなかっただろうが、それが15人になり、50人になれば、明確な役割分担とプロセスが生まれているはずだ)。

よくある喩えだが「自動車が走りながら車体を作っているようなもの」で、正直なところ前を見るのが精いっぱい、後ろや中(社内)を見る暇はない、というのが実情だろう。

しかも彼らのビジネスモデルは100%ヒト依存なので(プロダクトとかITシステムのようなものがない)、よく言えば柔軟性があり状況を見ながらフレキシブルに対応していけるが、悪く言えば労働集約的でスケーラビリティ(拡張性)に欠ける。つまり、生産能力を上げようと思えば、普通はその分社員数を増やさなくてはならない。

しかし、優秀かつベクトルの一致する社員を大量に採用するのは容易ではないし、補助金で運営している現在のビジネスモデルでは社員に高い給料を払えるはずもなく、したがって社員を維持するのもまたチャレンジだ。

また最終的に「生産」した起業家は現在512人だが、「リード」として登録された人数は3万人近いのだ。そこから知能テスト、ブートキャンプ、トライアル、といったプロセスを経て絞り込まれていったわけだが、各プロセスには改善の余地が多分にあるはずで、そこを改善できれば社員数を増やさずに生産能力を上げられる可能性もある。なにしろ、世界中で他に誰もやったことのないビジネスモデルを、彼ら自身も日々「試している」わけで、どこをどうやれば結果が改善するかは、まだ誰も検証していないのだ。

さらに、成長プランを考えるうえで大きな分岐点が、地理的な拡大だ。アウェトゥは現在、ヨハネスブルグの1拠点だけで運営しているので、社員は全員が同じフロアにおり、したがって社内の情報共有やスキルトランスファーという点では有利な状況にある。またヨハネスブルグは南アフリカ最大の人口密集地域であり、起業家のリクルーティングという意味でも、生産した起業家たちが商売をするマーケットという意味でも、もっとも効率がよいことも間違いない。

一方でプレトリアケープタウンダーバンなど他の都市圏Sa0302は、今のところまったくの手つかずだ。同じようなインキュベーション事業を行っているライバルがとくに居ないので、進出すればより効率よく起業家候補をリクルートし、生産できる可能性もある。一方で社員やオペレーションが複数拠点に分かれることになり、これまでの一拠点集中にはなかったリソースの分散や非効率が発生する可能性もある。

「1500人」という目標を達成するためには、引き続きヨハネスブルグ圏に集中していくべきなのか?それとも他の都市圏に進出すべきなのか?これが今回のお題である「地理的な拡張に関する提言」というわけだ。

もちろん、CEOのユスフを初めとするマネジメントチームは、自分たちでもやればやれるに違いない。単に時間がなく、手が回らないのだ。そこへ、SAPが、”外部コンサルタント”を3人タダで送り込みましょうか?という話を持ち込み、彼らはそれを喜んで受け入れた、というわけだ。

したがって今回のわれわれSAPチームの基本アプローチは、以下のようなものになった。

1. 現在(およびそこに至るまで)のアウェトゥのビジネスプロセスを調査・理解し、うまく行っているところと改善点を洗い出す(定性的分析)

2. これまでに”パイプライン”に入った多くの候補者が、「起業家」として独立に至るまでの状況をデータから分析し、うまく行くケースとそうでないケースの傾向値の洗い出しを試みる(定量的分析)

3. 上記1と2を組み合わせ、「2015年に起業家1,500人」を達成するために必要な成長プラン、とくにヨハネスブルグ以外の地域への進出をするべきか否か?の提言を行う

調査と分析にかなりのワークロードを要することは確実で、決して「楽勝”」はいかないが、3人が4週間かけてこなすには、量・質ともにちょうどよいスコープだと感じる。簡単すぎてもやりがいがないしね。

もっとも、こんな話も。。。

「数か月前にも、外部からインターンのチームが来て、別のプロジェクトをこなしていった」という。聞けばなんと、ハーバード・ビジネススクールの2年生たちだというではないか。MBAコースの2年目はそうした「外部プロジェクト」をこなすことがよくあるが、はるばるヨハネスブルグまで来るとは。

「で、彼らどうだった?」と感想を聞いたら、「すごかったよ、10点満点の11点だね」と。うわあ、こりゃえらいプレッシャーだ... (^_^;

ともあれ、まずはインタビューから。今回われわれのカウンターパートに立ってくれている、マーケティング担当のデールに、根掘り葉掘り質問していく...

Sa0303

■ヨハネスブルグの新しい顔

プロジェクト2日目の朝。ヨハネスブルグ・パーク駅で待っていると、やってきた車に乗っていたのはユスフとデール。「ついでにコーヒーを買おうと思ってさ、」と言って、パーク駅の少し西のほうにあるコーヒーショップへ。

すでに何度も言及しているように、ヨハネスブルグのダウンタウンは、あまり出歩きたくないゾーンが多い。アメリカに何年か住んでいたので、皮膚感覚で危険を感じることはできると思っているが、まさに「うわっ、やべっ!」とUターンしたくなるような空気が漂う(のを、クルマの中から外を見ていてもひしひしと感じる(笑))。

ところが一方で、街の一角に、突然、「歩いても全然問題なしゾーン」が現れたりもする。このコーヒーショップのある一角は、まさにそんな感じ。ユスフによると、ある社会起業家によるリノベーション(地域復興)の成功例のひとつとして、現在注目のゾーンだそうだ。黒人の学生が2人、2人ともMac Book Airに向かっていた。

Sa0301 左からユスフ、デール、SAPインドのヴィヴェック、SAPアメリカのジェニファー。

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