世界最大のヨットレースで、波と風をリアルタイムに「見える化」して勝利をつかめ!
いよいよ夏も本番。ロンドンオリンピックの開幕もあと2週間に迫った今回は、まさに旬の話題をご提供しよう。
欧州屈指の大企業でもあるSAPは、さまざまなスポーツ・イベントをスポンサーしている(当ポスト末尾に一覧)。
インテル・ミラノ(長友3シーズン目もガンバレ!)やニューヨーク・ヤンキース(黒田 後半戦もガンバレ!)をはじめ、ゴルフ(アーニー・エルス 、ポーラ・クリーマー、ゲイリー・プレイヤー、デビッド・レッドベター)、テニス(アンディ・ロディック、ミロシュ・ラオニッチ、SAP Open)など、PR効果の高いメジャースポーツがメインであるが、それ以外に非常に力を入れているのがセーリング(ヨット)レースである。
たとえばドイツのナショナルチーム「Sailing Team Germany」、世界最大のセーリングレース「Kieler Woche」、そして今週開幕する505級の世界選手権「SAP 505 World Championship」などで、主要スポンサーとなっている。
他のスポーツと比べると、ぐっと地味な感じのあるヨットだが、なぜSAPがヨットチームを?
ロンドンオリンピック男子470級に出場する、Sailing Team Germanyのゲルス、フォルマン組
■「誰がトップなのかわからない」戦い
セーリングレースは、見物客にとっては、「草が生えるのを眺めるようなもの」という言葉があるそうだ。つまりそれだけ退屈だということである。なぜか?
レースが、沿岸とはいえ何キロも離れた海上で行われているから、陸にいる観客からは遠い豆粒のようにしか見えないことがひとつ。
そしてもうひとつ、「誰がリードしているのか、途中経過がわかりにくい」という、セーリング特有の事情がある。どういうことか?
セーリングのレースは、洋上に固定したブイ2~4つで作られたコースを1~2周回して、先にゴールした艇が勝者となる。
セーリングのコースの例。左はSailing Team Germanyのディレクター、マーカス・バウアー
コースが決まっている以上、最短ルートを一直線に進むのが速そうなものだ。ところが、セーリングではそうではない。風上に向かって進まなければならないからだ。
ヨットは、風上に向かって真正面に進むことはできないが、風上に向かって45°の角度まではなんとか進むことができる。もちろん追い風に比べれば圧倒的に遅いスピードだが、周回コースである以上、全体の半分は向かい風に向かって進まなければ、いつまでたってもゴールできない。
したがっていかにして風上方向に速く進むか?がセイラーの技術の見せどころであり、勝負を分けることになるわけだ。
下図は「Business Analytics」というブログサイトの「505 World Championsihp」に関する記事の図だが、たいへんわかりやすい。
■Business Analytics - Sailing Analytics for the SAP 5O5 World Championship
Sailing Analytics for the SAP 5O5 World Championship より各艇はそれぞれの読みと判断で、風上に向かって、洋上をジグザグに進む。
- 風上に対する角度を鋭角にすればそれだけスピードは遅くなるが、距離は短くなる(図の左側のヨット)。
- 逆に風に対する角度を開けば、それだけスピードは速くなるが、進むべき距離も長くなる(右側のヨット)。
- その絶妙な中間を取った艇が勝者となるわけだ(中央のヨット)。
しかも、風は向きも強さもコンスタントに変わる。風をどう読み、どちらに進むか?セイラーは瞬時に状況を判断をしながら、タック/ジャイブ(ジグザグの切り返し)を繰り返していく。ただしタックのときは艇がいったん風の真正面を向き、スピードをロスしてしまうため、切り返しの回数を多くすればよいというものでもない。
各艇が風に向かって右斜めや左斜めに進んでいく結果、お互いが1マイル以上離れることもあるという。そうなると、どちらがリードしているかはブイの周回地点にさしかかるまでわからない。
これが、観客にとっての「わかりにくさ」につながっていたわけである。
■戦況をリアルタイムに見える化
ところが、SAPが505級セーリング世界選手権をサポートするようになった2009年からは、これが一変した。
SAPは各艇にGPSとセンサーを取り付け、さらに監視艇に取り付けた風向・風速計とあわせてリアルアイムに分析。どの艇が実質的にリードしているかを陸上やTVで観戦している観客に、3Dグラフィックスで見せることができるようになった。たとえば下記のようなイメージである。
■トレーニング革命
観客に見せるだけではない。このSAP Sailing Analyticsは、選手のスキルアップにも使われている。
レースやトレーニングの終了後、選手はこのSAP Sailingを使って、自分が選んだコースをリプレイして見ることができる。他の選手や風向きデータも加味して、どれがベストの選択だったのか、を追体験できるわけだ。これはセーラーにとっては革命的なことである。
■Introducing "SAP Sailing Analytics" in preparation to the Sailing World Cup (YouTube、2分35秒、英語)
そしてこのSAP Analyticsでは、観客であるあなたも、実際にこのダッシュボードを動かしてみることができる。つまりシステム全体がクラウド上に置かれ、選手や関係者は(そして観客も)それを地球上のどこからでも使うことができる、ということでもある。
■SAP Sailing Analytics Dashboard (過去のレースの実データが入っていて、実際に動かしてみることができる)
SAP Sailing Analyticsのダッシュボード画面(クリックすると拡大。実ダッシュボードの起動はこちらをクリック)
下記サイトでは、各レースのリプレイをみなさんも動画として見ることができる。
■SAP Saling Analytics Spectators (各レースの「R1」~「R8」のいずれかをクリックすると再生が始まる)
観客ビュー。(クリックすると拡大。実ビューの起動はこちらをクリック)
もちろんこうした公開ビュー以外に、ログインが必要な「関係者のみ」サイトもあるが、とにかくこうした圧倒的な「見える化」が、セーリングをこれまでとはまったく違った競技に変えていくことだろう。
■セーリングはビジネスと同じ
大きくは変わらない潮の流れ、時々刻々と変わる風向き、時に近く時にははるか遠くにいるライバルの動き、ジグザグの切り替えのタイミング、瞬時の判断。
なるほど、「セーリングのレースはビジネスと同じだ」とSAPの共同CEO、ジム・スナーベが言うのもうなずける。
そして、リアルタイムの大量(ビッグ)データの取集、インメモリDB上での超高速処理、さまざまな切り口からの分析とビジュアル表示、モバイル端末へのフィード、そしてそれらのクラウド提供。
SAPが目指す「リアルタイム・ビジネス」インフラのすべての要素がそこにはあることに、筆者自身も調査をしながらあらためて驚き感心した。
なるほど、SAPがセーリングに目をつけ、スポンサーとして非常に注力しているのには、明確な目的があったのだ。
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※当記事は公開情報に基づき筆者が構成したものであり、関係各所のレビューを受けたものではありません。
参考リンク:
■The Essential Guide to Sailboat Racing(英語、各2分半ずつ)
http://www.youtube.com/watch?v=y_Au4vEg-Aw
http://www.youtube.com/watch?v=8aymZSqeHLk
http://www.youtube.com/watch?v=yJUDjT7IU1E
http://www.youtube.com/watch?v=02AoEMNhTmY
4回シリーズで、セーリングの基礎について解説。おすすめ。■GEO Racing (音声なしまたはフランス語、長さはまちまち)
http://www.youtube.com/user/GeoRacingGTS/videos?view=0
フランスのTV局が放映したと思われる3Dアニメーション映像。残念ながらSAP製ではないが、非常におもしろい。強くおすすめ。たとえば、このレース(2分半)では、日本のSuzuki Wada組が優勝!
http://www.youtube.com/watch?v=8z0nJCxlcG4-----
■SAP 505 世界選手権2012
505級ヨットの世界選手権。SAPは4年前の2009年からスポンサーを継続している。
7月17日つまり明後日に開幕である。ライブ中継(もちろん、3Dアニメーション)などもあるので、注目!
http://www.sap505worlds.com/2012/モバイルサイトもある。
http://m.sap505worlds.com■Guide to the 5O5s - The 2009 SAP 5O5 World Championship
505級について語る、爽快なビデオ。楽しい。
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■SAP Sponsorship (英語)
http://www.sapsponsorships.com/■SAPスポンサーシップのFacebookページ (英語)
https://www.facebook.com/SAPSponsorships