目指せ、コンテンツエンハンサー――オルタナ5周年を祝して
オルタナティブ・ブログが開設して5年が経過しました。すばらしいですね。おめでとうございます。現在の管理人である「ばんちょー」の人徳もあり、数多くのブロガーに参画いただいていることで、次の5年が楽しみなプラットフォームとなりつつあります。
さて、この5年前で自分は何をやり遂げたといえるのでしょう。オルタナティブ・ブログが開設される直前に書いた日記がありましたので転載します。
毎日息を吸ったり吐いたりしているだけの自分に、「あんさんブログでも書いて世の中を憂いてみなさいな」とのお達しが下って参りました。そんなに必死になって自分を働かさなくても、神さまの愛は平等に降り注いでいるじゃないか……。自分がブログを書くことでその愛の日差しが遮られ、これから芽吹こうかという若い可能性が失われてしまうというリスクも念頭に置くべきなのではないのか……?
何ということでしょう。この文章からはまったくやる気が伝わってきません。何とかして楽をしたいという姿勢がありありと見えるようですし、どうみても屁理屈です。「足るを知る」と言えば聞こえはよいですが、すでに世界の半径を知ってしまった「老人」であるかのような言葉が並んでいます。恐ろしいですね。
恐らく当時は、ブログというプラットフォームで情報を発信する意義をさほど感じていなかったように思います。ITmediaエンタープライズという巨大な媒体の一編集者として情報を発信していることもあり、それと比べるとリーチがまるで違う媒体で書く必然性を感じていませんでした。自分のブランディング、といった方法でブログを使うことで広がりもあったのかもしれませんが、それ以前に成すべきことがあったと考えていたのでしょう。
事実、このころわたしは、ITmediaエンタープライズの人気記事の上位をすべて自分が書いた記事で独占する、という野望を密かに持ち、それを実現することに力を注いでいました。ここでいう人気記事の指標はPVだったりソーシャルブックマークの数だったりしますが、例えばはてなブックマークを例に挙げると、現在、トップ10はすべてわたしが担当した記事で占められています。トップ20に拡大すると85%が、トップ30に拡大しても77%がわたしの担当した記事です。これは単にはてなユーザーに好まれる記事を作成した、ということに過ぎないのですが、この指標に対してこうした成果を出せたことにある種の達成感を覚えています。
そして現在、幾つかの観点からわたしは自身の方向性を再考する時期に来ています。まず、効果指標として、はてなブックマークに変わるものを考えています。ソーシャルブックマーク数やTwitterでの記事URL登場回数など、幾つかの評価項目を持つ評価関数によって記事の価値を測るシステムを構築中です。これを考える過程では、「記事の価値とは何か」という原点回帰的な思考を持つ必要があり、改めて考えさせられることが多くあります。上述したような評価項目は外在的な価値判断基準であり、その意味では内在的な価値判断、つまり、わたしたちはどういったコンテンツを届けるべきかを考える必要も生じます。これは非常に大きなテーマです。
もう1点、コンテンツ作成に一種のデザインパターンを取り入れるチャレンジを始めたということも挙げられます。オブジェクト指向に慣れている方にはさほど目新しい話でもありませんが、コンテンツ作成にベストプラクティスをもう少し取り入れることで、生産性、あるいは再利用性を高められればと考えています。
オブジェクト指向の恩恵を受けるには、記事を構造化し、再利用しやすい形に設計しておくことが必要です。プログラミングをしたことがある方なら共感できるかもしれませんが、優れたオブジェクト指向の設計というのはつまり、目の前の問題を解決することだけでなく、将来の仕様変更あるいは仕様追加にも柔軟に対応できることや、再利用性の高いクラスやライブラリの作成が念頭にあるものです。これはコンテンツ制作でもさほど変わりはないように思いますが、不思議なことにあまり活用されてきませんでした。デザインパターンが存在し、それを習得している編集者どうしであれば、パターン名でその記事あるいは企画の構造を理解・共有できます。一方、デザインパターンを習得していなければ、クラスのレベルから説明しなければなりません。これまではクラスのレベルから説明するような非生産的なことをやっていたように思います。これが当たり前だと感じていたのでさほど気にもなりませんでしたが、もしデザインパターンが存在するなら、これを使う方がはるかに生産性は高くなるでしょう。
概念は比較的シンプルなのですが、デザインパターンを編集業務に応用していくのはなかなか困難です。しかもステータスとしては、デザインパターンを作成するという段階であり、言い換えれば、優れた記事に見られるデザインパターンを理解し、なぜそれらが良い設計なのかを理解しているフェーズです。幸いにして、記事のデザインパターンを考える上で参考になる記事は数多くITmediaドメイン上に存在します。IT戦士の異名で知られる岡田有花さんや、@ITの西村賢さんの記事はベストプラクティスの塊ですし、そこにはデザインパターンに昇華しそうなものが多く存在しています。こうした記事を構造解析していく作業は非常に楽しいですし、これまでなら個人のスキルとしてとらえられてきたものを、デザインパターンに落としこむというのは、出版・メディア業界を見回してもあまりやり遂げた人がいない領域ですので、やりがいのある仕事だと考えています。
そして、ブログやTwitterといったメディアの活用も、もう少し真剣に考えたいなと思っています。これについてはまた書くこともあるだろうと思いますので、ここでは触れません。
このように、オルタナティブ・ブログが開設される前に書いた日記からは想像もできないくらい編集のやりがいを感じている今日ですが、ここで言いたかったことは、5年間で自分のロールは大きく変わったなぁということです。FF13で例えれば、アタッカーからエンハンサーに変わったような感じです。次の5年でコンテンツエンハンサーとしてのロールをどこまで成長させられるかがわたしにとってのチャレンジとなりそうです。
オルタナティブ・ブログも、さまざまな経験を経て今日に至りました。次の5年で、また成長を遂げることでしょう。5年後に、コンテンツエンハンサーのノウハウをここで共有できればいいなと思います。