2013年のF1 が楽しみな3つの理由 - 新年の挨拶にかえて
明けましておめでとうございます。
さて、2011 年のF1 もチャンピオンシップ争いをはじめとして、チームロータスとロータスルノーGPの行方など、気になることは沢山あります。
でも、僕が一番気になっているのは、果たしてフジテレビと鈴鹿サーキットはそれぞれ 2012 年以降F1 の放映権および開催権をそれぞれ延長してくれるのかということです。テレビの F1 中継は継続してほしいですし、鈴鹿サーキットを疾走するF1 をまだまだ見ていたいです。そして何より、かなり大きな変更が予定されている2013 年の F1 を目の当たりにしたいからです。
ということで、今日は新年早々再来年の話をします(^_^;)
テーマは「2013年、なぜF1 は変化しようとしているのか?」です。
・チェンジス -2013 年のF1 -
2013 年のF1 には、マシンとエンジン、その双方に革新的ともいって良い変更が予定されています。まずは、これまでにいくつかのニュースで報じられている技術的な変更内容を箇条書きでまとめてみます。
- エンジン
- 現在の2400cc V8 エンジンから、 4 気筒 1,600 cc のターボエンジンへ
- KERSと呼ばれる、エネルギー回生システム (2009年導入済み) の出力アップ
- マシン
- 大きなフロントウイングから、小さなフロントウイングへの変更
- ステップボトム (車両の裏面が段のついた平面になっている構造) から、ベンチュリー構造 (車両の裏面全体が飛行機の翼のような構造) へ
どうやら2013年のF1 の見た目やエンジン音はかなり大きく変化しそうです。さて、詳細な内容は、今後F1 雑誌やフジテレビF1 中継に出てくる解説者の皆さんが説明してくれるはずです。そのため blog.formula.commons では、「なぜF1 はこのような著しい変更を行おうとしているのか」、いくつかの理由を考えてみようと思います。
理由1. 「頻繁なルールの変更はレースを面白くするから」
F1 は不思議なスポーツです。例えば、ほぼ毎年といっていいくらいスポーツを行うためのルール、レギュレーションが変更されてきました。たとえば、20年前にはターボエンジンが禁止になりましたし、15年前にはABS, トラクションコントロールなどといった、今日の自家用車では標準装備ともいえるデバイスが利用禁止になりました。
こうしてレギュレーションが変化したとき、F1 では強者が敗者になり、敗者が強者になる歴史が繰り返されてきました。たとえば、2000年代を振り返ってみましょう。始めはミハエル・シューマッハさんとフェラーリチームが5年連続でチャンピオンを獲得し、続いて2005年と2006年には、フランス・ルノーのバックアップを受けたフェルナンド・アロンソさんが2年連続でチャンピオンを獲得しました。自動車メーカーが技術的あるいは資本的にバックアップしたワークスチームが成功を収める時代が続いたのです。しかし、2009年にかなり広範囲なレギュレーション変更が行われた結果、昨年と一昨年は自動車メーカーがバックにいない、レッドブルとブラウンGPが栄冠を勝ち取りました。
ルールの変更によってチーム間のパワーバランスを変化させて競争を刺激する。それによって、マンネリ化を防ぎ観客の興味を持続させる。それは、F1 が何度も何度も行って来た歴史で、それが上手く行ってきたことも確かなのです (参照: Mastromarco, Camilla and Runkel, Marco (June 2004): Rule Changes and Competitive Balance in Formula One Motor Racing. Discussion Papers in Economics 2004-16)。
理由2. 「F1 の主な市場としてのヨーロッパが、現在のF1 を受け付けなくなったから」
F1 は何かと贅沢なスポーツです。世の中にとって何の役に立つのか分からない先端技術に何十億も投資して、チャンピオンシップという勝利を収めることができるのは毎年たったひとりのドライバーと1チームです。そして忘れてはならないのは、こうした資本的な側面だけではなく、F1 は有限資源である化石燃料を湯水のように使って競争を繰り広げるスポーツであることです。
「いやいや、でもF1 全体が1レースで使う燃料なんて東京-パリ間片道フライト1回分と同じくらいなんですよ?F1 が使う化石燃料なんて大したことないじゃないですか?」
たしかに正解です!
でも、問題はたぶん「量」ではないのです。
例えば、ジャンボジェット機が飛ぶ様子をテレビで見られるのは飛行機会社のCM ぐらいです。そうした様子をテレビでみるとき、あまりガソリンを浪費しているイメージは浮かばないように思えます。
一方、F1 は世界中の人々が日曜の昼下がりから夜に観戦します。F1 の中心であるヨーロッパは、排ガス規制が最も厳しい地域です。自家用車として低燃費であるミニカーあるいはハイブリッドカーを消費者が選好し、ヨーロッパの自動車会社も次々に環境を重視した車種を発表するなか、F1 は未だに燃料を垂れ流しながら競争を繰り広げています。
2013年のレギュレーション変更では, エネルギー回生システムの導入、エンジン回転数の制限などによって、これまでに比べF1エンジンの効率が50%改善されるそうです (参照. Formula 1 will adopt new 'green' engines in 2013 [BBC Sport])。F1 が社会に与える大きな影響を考えてみると、ガソリンの使用量を減少させることに繋がるこれらの変更は、F1 の母国であるヨーロッパでのイメージアップを狙ったものであるのかもしれません。
実際、ヨーロッパの自動車企業のいくつかは2013年のルール変更を受けてF1 参入を検討しているとされています (参照: Volkswagen welcomes new F1 rules for 2013 [motorsport.com])。
ガソリン消費量はともかく、昨今の "グリーン" 志向な市場変化に合わせてルールを変化させることでF1 を、「化石燃料を垂れ流す環境破壊的なスポーツ」から「資源効率性を追求するような先端技術を突き詰める『動く実験室』」というイメージに再び変化させること。それによって、近年開拓した BRICs や中東だけではなく既存のヨーロッパ諸国の大企業にもF1 に再び目を向けてもらうことが、今回の大変更の目的なのかもしれません。
理由3. 「まだまだ先進国な日本に、もうちょっとだけF1 に関与して欲しいから」
3つ目は斜め四十五度な理由です。
ルール変更を受け、主にヨーロッパ発で「2013年ホンダF1復帰説」が唱えられています (参照. 日本の自動車メーカーがF1復帰? [ESPN F1])。なぜなのでしょうか?
「失われた10年」、「失われた20年」などといわれる日本ですが、未だtop3 に入る経済大国であることは確かです。そして日本はF1 に対して過去二十年間、ホンダやトヨタによるチーム運営やエンジン供給、ブリジストンによるタイヤ供給、数多のスポンサーによる資金提供、そして多くのドライバーをF1 の世界に送り込んできました。結果はともあれ、日本はF1 に金も口も人も出してきたのです。
2011 年現在、日本とF1 との間の主な繋がりは小林可夢偉という、ひとりの前途有望なドライバーひとりだけです。いま、F1 と日本との間のつながりはここ20年でかつて無いほど弱くなっています。
いくつかの不幸な歴史からアメリカとの相性が悪い F1 にとって、日本という世界有数の支援者を失うのはあまりに惜しいのかもしれません。それなら、技術的なルールを日本の主な自動車企業が得意とする環境を重視したものに変更することで、再び参入を促そう。再び、彼らから金銭的あるいは資本的な支援を得られやすいようにスポーツの形態を変化させよう。確かに、アジアの国々はグランプリを開催したりチームを持ち始めているけど、F1 を運営している人々にとってはまだ心許ないかもしれません。
・「見える手」の力を信じるかい?
さて、理由を3つあげてみました。どれが正解で、どれが不正解かはまだわかりません。何といっても、2013 年までにはあと 2年もありますからね!
確かなことは、これらの変更は確実に F1 に変化を与えることです。2013年のF1 グランプリは、今僕たちが見ているそれとかなり違うものになるのかもしれません。市場の発展や変化に応じて、企業がその組織と戦略を変化させる。 文字にしてしまえば当たり前のことですが、産業としてのF1 を眺めると、このようにスポーツの形態を徐々に変化させることで60年間に渡り生き永らえてきたことがわかります。
さて、もうひとつ重要な点があります。これらのF1 の変化は決まって、顔の見える誰かによって行われてきたことです。特にこの30年間は「バーニー」という、どこかの女の子向けオモチャみたいな名前をした、御年80歳のイングランド人のおじいちゃんが、F1 の様々なことを取り仕切ってきました。
彼の名前は、バーニー・エクレストンといいます。企業家としてのバーニーについて、今後このブログで取り上げて行こうと思っています。
それでは、今年もよろしくお願いします。
by blog.formula.commons (原泰史)
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