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デジタルコンテンツ流通の潮流を見据えて

DRM進化論第二章、SocialDRMが与えるインパクト

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音楽の世界ではすでにアップルもアマゾンもSocialDRMの採用に大きく舵を切った。出版ではこれからの動きが注目される。昨年電子化されたハリーポッターシリーズは始めて本格的にSocialDRMが使われた例だ。音楽と違って出版コンテンツは多岐に渡るので一概にすべてSocialDRMがいいわけではない。コンテンツの内容や流通方法の違いまたはビジネスモデルによって、従来型の固いDRMを必要とするケースは多い。

ハリーポッターの電子化はSocialDRMに関連して電子出版として革新的な試みであった。

1 価格破壊:1~3巻が7ドル99セント(約650円)それ以外は9ドル99セント(約820円)と従来の電子書籍に比べても破格。
2 作家・出版社による直販:作者J・K・ローリングが運営する「ポッターモア」による独占販売。AmazonやB&Nに掲載されているのは「ポッターモア」のサイトへの単なるリンクで、販売権はポッターモアが保持。
3 標準フォーマット:EPUBとSocialDRM。AppleやAmazonのDRMの呪縛から開放。
4 図書館への無料配信:OverDrive社が図書館へハリーポッター電子版の無料配信。

キーワードは標準フォーマットとプラットフォームに依存しないDRM技術だ。ポッタモアが使ったSocialDRMは独自のものだが、EPUBのXHTMLファイルに購入者のメールアドレスが書き込まれ、コンテンツの幾つかの箇所に表示もされる。メルアド以外にもユニークなIDが振られていたり、いくつかの手法が取り入れられている。自分のメルアドが表示されているコンテンツを不正利用するユーザーは稀だということで、不正の抑止につながっている。

このように書店が独占しているデジタルコンテンツの販売プラットフォームからEPUBとSocialDRMを使うことで作家や出版社は流通の主導権をとることができる。もちろん、こういったことができるのはハリーポッターのような超有名な作家の特権だと言う意見が多いが、ぼくはそうは思わない。無名の作家や出版社であってもこの手法は大きな威力を持つ。いや、逆に無名のロングテイルの作家ほどハリポタモデルは有効だ。逆に言うとハリポタのような超有名な作家はなにをやっても上手くいく。

ハリポタの場合は電子版を出しただけで世界的なニュースになるのでポッターモアにはユーザーが殺到した。だが、AmazonやB&Nで他の電子書籍と同様に売られたとしても同じようにユーザーは殺到しただろう。無名な作家がAmazonで発売したとしてもそれは膨大なコンテンツの中に埋もれて、検索でしか発見されない。これはその作家がネットで作品を直販した場合となんら違いはない。結局検索が頼りの綱ということになる。後はFacebookやTwitterのような口コミだろう。であるならば、書店に高いマージンを払って置いてもらう必要はない。

残るは課金の容易さだ。AppleやAmazonでコンテンツを買うおそらく最大の理由は課金だろう。すでにそれぞれのIDを持ちクレジットカードが登録されていれば1−2クリックで安全に買い物ができる。この便利さは捨てがたい。ただ、例えばPaypalのような仕組みが日本でも浸透すればこの障壁もだいぶ低くなる。多くのサイトがPaypalを採用してきている。ユーザーはPaypalアカウントを持っていれば新しいECへ行った時に毎回クレジットカード登録をする必要がない。

デジタルコンテンツ販売に重要な要素は2つしかない。プラットフォームに依存しないフォーマットとDRMの仕組みと簡便な課金だ。書店プラットフォーマーによるマーケティングはもはやSNSや検索による訴求力に比べてそんなに優位ではない。Amazon もAppleも決して作品を平台に積んで売ってくれはしない。店の奥の棚に刺されるだけだ。

アイドックはこうした作家や出版社を応援する仕組みを提供していきたい。

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