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デジタルコンテンツ流通の潮流を見据えて

出版ビジネスが目指すのは垂直統合か水平分業か?世の中見た目と実際は違うということ。

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あらゆる業界で垂直統合型と水平分業型ビジネスの優劣が議論されている。大きな流れとしては垂直統合型の弊害が指摘され、広い意味での分業化が市場のダイナミズムを生み出すとされる場合が多い。紙媒体のビジネスが大きく落ち込み電子媒体への期待と恐れが拮抗している日本の出版界はどうなのだろうか。日本の出版界では、「作家、出版社、印刷会社、流通会社、書店と、さまざまなプレイヤーがいて、水平分業型のビジネスモデルが成り立っている」と主張して、「米国型(AmazonやAppleを指す)の垂直統合型に対抗しなければならない」と主張している人がいる。果たしてそうだろうか?

長くなるが代表的な発言として、電流協(電子出版制作・流通協議会)の会合での岸博幸氏の発言を引用する。

プ ラ ッ ト フ ォ ー ム レ イ ヤ ー 企業(Google・Apple・Amazon)が コ ンテンツの流通全体を牛耳り、正当な対価を払わずに搾取しています。この状況が世界的に文化やジャーナリズムの衰退をもたらせています。コンテンツの流通独占がネット企業側に移りましたが、ネットではジャーナリズムや文化が拡大再生産できるシステムになっていません。出版産業でもしばらくは悪影響が起きる可能性があります。書籍が担ってきた出版文化が、電子書籍にシフトする中でどのように維持されるかが重要です。オープンから垂直統合での囲い込みという大きなパラダイムシフトが起きています。プラットフォームレイヤーが端末と融合し、より一層強固なものになっています。この垂直統合システムが日本にも参入しようとしていますが、このモデルを受け入れるだけでは無理で、日本の出版文化維持を真剣に考えなければなりません。
岸氏はほかにも最近の著書「ネット帝国主義と日本の敗北―搾取されるカネと文化」や「アマゾン、アップルが日本を蝕(むしば)む」などで、AmazonやAppleのことを帝国主義とか搾取とか扇情的な言葉を使って批判していて、それをそのまま受け入れてしまっている出版界の人もいると思うと気になるところである。もっとも著書の中身を読むと、実際には具体的にAmazonやAppleのビジネスモデルの問題点を総括しておらず、一般論としてのインターネットや電子書籍の負の面を強調しているだけで、何ら建設的な提案になっていない。

AmazonやAppleは明らかに垂直統合型のビジネスである。上流のコンテンツから始まって最下流の端末まで含めて自らの製品または自らの戦略に則ったもので固めて、他社がその枠組に入り込むことを徹底的に阻止する。Amazonの場合様々な端末端末でコンテンツを閲覧できるようにしているので完全な垂直統合型では無いように見えるが、それぞれの端末用にKindle for xxxxといったアプリケーションソフトウェアをAmazonが管理提供している限り、あくまでも垂直統合型だ。さらにAmazonの場合、Appleと違って紙媒体のコンテンツ販売も統合されていることでApple以上の垂直統合型であると言える。AppleがKindle for iPadを締めだすのでは無いかと市場ではいろいろな憶測が飛んでいたが、先日のAppleの条件緩和によって、どうもそのまま残るようだ。

日本における既存の紙媒体の出版は一見水平分業型のような形に見えるのだが、実態は出版社、取次、書店といった流通が再販制と委託販売でコントロールされているために本来の水平分業のメリットが出せておらず、むしろ大手出版社や取次会社による巨大な垂直統合型とも見える。無名の著者や零細な出版社が書籍をメインの流通網に乗せることは困難だし、中小の書店は売れる本、売りたい本を仕入れることができない。再販制による価格の制限だけでなく、本来あるべき流通の段階での自由度がまったく無い。一方アメリカでは原則自由な流通が保証されているので紙媒体の流通は水平分業型であったと言える。それが電子出版の世界になるとAmazonやAppleといった大手ネット企業がそれぞれ垂直統合型を目指すという図式が先行している。日本の状況は未だに大手出版社主導の似非水平分業型である。

13日、ソニー、楽天、紀伊国屋書店、パナソニックは国内の電子書籍事業で連携すると発表した。各社が別々に提供する配信サービスや端末などを7月以後、順次、相互に接続できるようにし、相互接続によりユーザーが利用しやすい環境を整えることで顧客層を拡大し、出版社からより多くのコンテンツを集める効果も狙うということだ。発表によると、

ソニーは電子書籍端末の販売と配信サービスを展開し、紀伊国屋書店も配信サービスを手がけている。楽天は紙の書籍のインターネット販売に加えて電子書籍の配信も計画中。パナソニックも電子書籍が読める端末の発売を検討している。今後は例えば、楽天のストアで購入した電子書籍をソニーの端末で読めるようにしたり、異なるストアで購入した書籍をユーザーが一元的に管理できる仕組みなどを導入する。紙の本の書店と電子書籍ストアの売れ筋情報をまとめて紹介するサイトも開設する。

ソニーはすでに電子書籍配信システムで凸版印刷やKDDIなどと提携しており、大日本印刷とNTTドコモ、シャープとカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)がそれぞれ連携するなど、もう何がなんだか分からない状況だが、日本の電子出版ビジネスが未だに浮上していないことは確かである。このように各社が確固たる戦略を持たずにその場限りの合従連衡を繰り返すことを水平分業型と呼ぶのだろうか?

Comment(1)

コメント

通り過ぎ

過去の出版界が水平分業型なんてとんでもない誤解(もしくは事実の隠蔽)な気がします。
・○ーハンと○版だけで流通の70%以上を牛耳る寡占市場
・取次の都合で決められた手数料(競争なし)
・まったく価格競争のない商品しかない
 (消費税非課税事業者が消費税を加算して販売してまで同一価格を維持)
・価格競争がないため、「取次との契約」可否で競争をしている書店の実態
 (近隣にある書店と同一の取次は原則利用できないというルール)
強者に有利な、商慣習にのみ基づく規律に縛られた世界だと思いますので、とても水平「分業」だなんて言えない筈です。

印刷業界の電子出版に対する取り組みも、○版印刷と大○本印刷がほぼ寡占している状況で、その2社が生き残りをかけていろんな試行錯誤をしているという「過渡期」のように思っています。
およそ統一感のある行動ではないし、業界全体の進むべき方向が見えてもこないと思います。

リンク先の「電流協の会合」の会談も読みましたが、議論にもなっていないですね。
電子化による文化の衰退という根拠のない論点へのすり替えとか、日本文化は独特なんだから外資に入ってきてもらっては困る的な発言やら、苦笑ものです。

日本では外圧をきっかけとして業界が一丸となって素晴らしいものを作り上げるということが過去に起きていると思っています。
是非、著作者や出版社の柔軟な行動を押さえ込まないような体制をお願いしたいものです。

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