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デジタルコンテンツ流通の潮流を見据えて

電子書籍の価格を誰が決めるのか?Agency Model問題の本質は?

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昨年(2010)10月14日にAmazon UKのKindle ForumにThe Kindle UK Teamの名前でAgency Modelについて次のような投稿がされた。Agency Modelとは、書籍の販売価格を書店ではなく出版社が決めるやりかただ。AmazonはこのAgency Modelだと電子書籍の価格が高くなり、読者・著者・書店・出版社のいずれにとっても不利益が生じると説明している。2010年1月に、AmazonはMacmillanとKindle版の価格について議論が紛糾したが、その後AppleのiBookstoreがAgency Modelを出版社に提案したこともあり、Amazonは大手出版社に対して妥協してAgency Modelを認めるようになった。

このように版元が書籍の価格を決めて書店にその価格を維持することを強制するのは日本では当たり前なので、Agency Modelと言ってもその異常さが伝わりにくいが、欧米では書籍に限らず、流通の過程で上流で価格を決めて販売の現場がそれを変えることのできないケースはほとんどない。商品の流通や販売の仕組みは国や時代または商品によって様々に推移してきていて文化の一部になっている場合もあるだろう。だが、大きな流れとしては商品の価格はその流通の過程で販売者が自由に決められるのが原則になっていると思う。独占禁止法ほかのいろいろな法律も消費者保護の原則から販売価格設定の自由を阻害する行為を戒めている。

書籍については各国ともいろいろな経緯があり、いわゆる再販指定を認めているのは日本の他にヨーロッパで数カ国があるが、米英では認められていない。Amazonに対して出版社が強要しているAgency Modelとはこの再販売価格の指定にあたる。書籍の再販指定が認められている国でも電子書籍は別で再販価格の維持を強制することはできない。にも拘らず書籍の再販指定が認められていない米英でこのようにAgency Modelが電子書籍に対して使われることは甚だ異常なことだ。

AmazonがKindleを発売し電子書籍が実際のものとなって、その存在を出版社も無視できないようになり、2010にAppleがiPadの発売に合わせてiBookstoreを始めるに際してAgency Modelを出版社に提案することでAmazonも妥協せざるを得ない状況になった。

出版社に限らず商品を生産して広く市場で販売していこうというメーカーにとって、市場での販売価格をコントロールしたいという気持ちはよく理解できる。せっかく苦労して作った商品が市場で乱暴に廉売されるのを見るのは辛い。ただ、それを敢えて許し、流通での価格をそれぞれの販売者に任せるのが、長い時間を経て我々が学んだ最良の方法なのだと思う。(つづく)

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