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デジタルコンテンツ流通の潮流を見据えて

DRM進化論 出版流通を再定義する(2)

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Picture_2_7今回はこの図について説明する。赤い部分がTAMである。TAMとはTotal Available Marketでその書籍を販売できる可能性のある全ての市場を示す。日本の場合書籍販売数は一部のベストセラーを除くと数千から数万の間だろう。それに対してTAMはいったいどれくらいあるのだろうか?これはコンテンツごとに違うが、数万から数十万といったところだろう。問題はそこにどれだけ訴求(リーチ)できているかだ。それを表すのがベージュ色の輪だ。現在の出版流通の場合、出版社が販売数を想定して印刷部数を決め、取次が全国の書店に配本する。これがほぼマーケティングの全てだ。広告として新聞や雑誌に広告を載せるが有料であるしたいていの場合ごく限定的なものになる。話題の本の場合は無料で媒体に書評がのる場合もあるがこれも限られている。結果として赤とベージュの重なる部分は限定的になる。そして実際の販売はこの重なった部分の中でしか発生しないのである。

一方、デジタル技術とネットワークを利用した新しいマーケティングを使うことによって、このベージュの部分を最大化することができる。最大化できるということはTAMのほとんどまたは全てをカバーすることが可能になる。結果として赤とベージュの重なりも最大化され実際の販売も最大化できる。

「FREE」はこのことを実践して見せてくれた。書籍の内容をPDFで無料で期間限定ながら配布し、Wiredなど自社のインターネット媒体での告知やTwitterなどによるバズマーケティング手法もふんだんに使った。これらは基本的に無料のマーケティングだ。これらの手法により「FREE」に興味を持ち購入する可能性のある市場のほとんどに訴求することができた可能性がある。Amazonでは50日間以上も100位以内を続けているしビジネスカテゴリでは一位を続けている。これはかなり衝撃的な事実である。もし「FREE」を通常の出版流通で販売した場合、売上は比較にならない位低いものになった筈だ。また附帯ビジネスとしてはChris Andersonの前の著書である「ロングテール」が改めて売れたり、監修の小林弘人氏の著書が売れたり、おそらく講演の依頼も多く来ている筈だ。

改めて図に戻ると、いかに低いコストで赤とベージュの重なりを大きくするかということだ。既存の書籍マーケティングは今となってみれば非常に非効率な仕組みになってしまっている。書店に置くことがマーケティングの基本になってしまっているので50%という返本率を承知で配本する。しかもそれは都市部の大型書店に限定されるので地方または中小の書店にとってはその書籍は存在しないことになる。新聞などへの広告も低い利益の中から行うので数回だせれば良い方だろう。しかもこれらは全て有料だ。

つづく

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