コルシカを否定しただけでは何も生まれない
先週、エニグモが始めたコルシカというサービスは雑誌業界に大きな波紋を巻き起こした。業界的には大きな波紋だが、一般世間ではビジネスモデルが仮死状態にある雑誌業界の見苦しい事例の一つでしか無いかも知れない。コルシカのサービスというのは雑誌をネットで買った人にデジタルで内容をネット上で見せるというものだ。同様のサービスがこれまで日本や海外であったのか知らないが、始めてだとするとちょっとしたコロンブスの卵だろう。このやり方はしばらく前に問題になったテレビ番組を契約した人に代わって録画してネットで提供するというサービスだ。個人との録画代行契約というものだ。コルシカの場合はその雑誌を実際に購入している人に提供するものであるから著作権法上は私的複製だというのがエニグマの主張だろう。出版社と始めるに当たって契約がされているのであれば何の問題も無いサービスと言える。エニグマという会社をホームページで見ると大手企業の出資で出来ているちゃんとした会社のように見える。法律顧問もちゃんと明示されているところから、コルシカは完全に確信犯(犯罪と言っているのではないが)であろう。出版社から今回のように苦情が来ることは百も承知だったのかも知れない。事後の対応も落ち着いた納得いく説明のように思える。
こういったことに敏感に反応する2チャンネルなどの反応も見てみた。概ね冷静にかつ好意的に受け止めているコメントが多かった。反面、矛先を返してこういったベンチャーを潰そうとする日本の出版社に対して批判的なコメントが目立った。かつて日本ではライブドアがCDリッピングサービスを立ち上げようとして音楽レーベルや著作権団体などに潰された経緯がある。米国では現在はCDリッピングはまっとうなサービスとして成立しているようだ。個人が自分が購入したCDをリッピングしてiPodなどで聞くのはもはや音楽視聴の方法として常識になっている。最近CDプレイヤーで音楽を聞いている人をついぞ見たことがない。また自動車のオーディオ装置ではCDを挿入すると自動的にリッピングしてハードディスクに録音するのも常識になりつつある。こういった環境で、それをネットのサービスで提供しようというのは決して常識から逸脱したものではないだろう。scanbooks.jpというところではスキャナーをレンタルして雑誌や書籍をデジタル化させるというサービスをしている。親切に雑誌や書籍の小口を裁断してスキャンしやすいようにして返送してくれるサービスも行っている。小口の裁断までやるのならば、スキャンもやってくれればいいのにと思うがそうはせずにスキャナーのレンタルという方法を思いついたところが凄いというかなんと言うか。今回のコルシカは雑誌を購入してくれて、小口の裁断もしてくれて、しかもスキャンまで代行してくれるというものだ。至れり尽くせりという訳だろうか。
ということで、コルシカのビジネスモデルが本当に正当なものかについては疑問が残ることも事実だ。上述のCDリッピングやスキャナーのレンタルは、間違いなくユーザーがアナログなコンテンツを所有していることが担保されているが、コルシカについては本当にユーザーの数だけ雑誌が購入されているのか確かめる方法がない。送料が別途かかるので紙の雑誌は送らなくてもいいというユーザーもいることを考えると、コルシカはユーザーの数だけの雑誌を購入しなくてもサービスを提供することができる。逆にユーザーは雑誌代の他に数百円の送料を払ってまで、デジタルですぐに内容を見ることを望むだろうか?うろ覚えだが、最初に例に出したテレビ番組の録画サービスについても、ユーザーの数だけチューナーを用意してそれぞれ録画することが条件で許されたように思う。おそらくコルシカの場合、すべてのユーザーが雑誌の郵送を希望した場合にはとても採算が取れないような気がする。出版社もそういった胡散臭さを感じて批判しているのだろう。
(つづく)