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「良い文章」は読者を誤解させやすい

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技術屋のためのドキュメント相談所・所長の開米です。

今日は、「良い文章は読者を誤解させやすい」という話を書いてみましょう。

まずは以下の2つの文を読んで、どちらのほうが「良い文章」に見えるかを考えてみてください。

例文A:彼は昨夜寝不足だった。その結果運転中に居眠りをしてしまった。その結果、交通事故を起こした。


例文B:彼が昨夜運転中に居眠りをして交通事故を起こしてしまったのは、寝不足だったからだ。

比べてみると、例文Aのほうがなにか「幼稚」で「書き慣れていない」文に見えませんか?

実は「文章」を書く上でよく指導されるガイドラインの1つに、「同じ表現の繰り返しを避ける」というものがあります。例文Aでは「その結果」という表現が2回重なっていますが、Bではそれがありません。「同じ表現の繰り返し」があると文章が幼稚で頼りなく見えるので、それを避けるのが「良い文章」を書くための基本的テクニックの1つなんです。

例文C:昨日、野球をやりました。タケシ君がヒットを打ちました。スネオ君もヒットを打ちました。僕もヒットを打てました。1点入りました。

小学生が作文を書くと、よく↑こういう書き方をしますね。これを下記のように変えると・・・↓

例文D:昨日、野球をやりました。タケシ君がヒットを打ちました。スネオ君のバットからも快音が響き、僕も狙って三遊間を抜くことができました。1点先制です!

いきなり、凄く賢そうな文章になりました。これが、「同じ表現の繰り返しを避ける」ことで得られる効果です。同じ表現を繰り返すと馬鹿っぽく見えるのに対して、言い換えをすると頭が良さそうに見えます。そのためこれは「良い文章」を書く上での基本テクニックになっています。

しかし、残念ながらこのような「良い文章を書くためのテクニック」は、「情報を短時間で正確に伝える」上では有害なのです

たとえば例文Bは確かに「文章を書き慣れている」ように見えますが、真の因果関係とは違う「居眠り」「交通事故」「寝不足」という順番でキーワードが登場しているため、ぼんやり読んでいるとかえって誤解を招きやすい表現なのです。ですから、この種の単純な因果関係を正確に伝えようと思ったら、文章ではなく図解にすべきです。

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もし例文AやBが表している因果関係を図にするなら、上記のように「寝不足→居眠り→交通事故」と一直線につなげる以外の書き方はほとんど考えられません。これなら因果関係が絶対に誤解なく伝わりますし、「文章が幼稚」と思われる恐れもありません。

というわけで、「良い文章」は実は読者を誤解させやすい場合がある、という、あまり知られていない事実には気をつけておきたいものです。

(今回の内容は、技術評論社刊 「<文章嫌いではすまされない! > エンジニアのための伝わる書き方講座」 の 第3章 p.72~73 を若干改訂してお届けしました)

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