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人事・組織領域を専門とする、クレイア・コンサルティングの広報・マーケティング担当です。人事・組織・マネジメント関連情報をお伝えします。人事やマネジメントの方々にとって、未来の組織を作り出す一助になれば大変うれしいです。

かつて優秀だったはずの人がなぜ平凡化していくのか

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クレイア・コンサルティングの調です。こんにちは。
今回はいつもとは趣向を変えて、当社ディレクター橋本卓によるコラムをお届けします。

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人が成長する上で、「資質」と「環境」がどのくらい影響を与えるのかという議論は以前から研究者が取り組んできたテーマである。教育学や医学の世界では、同じ遺伝子を持つ一卵性双生児を対象とした研究が進んでいる。例えば教育学では、一卵性双生児の学校の成績や体育の能力を比較した研究が進んでおり、双子でも環境により影響を受けやすい性格・能力とそうでないものがあることがわかっている。

企業の人材育成を考える上でも、この「資質」と「環境」は常につきまとう疑問である。我々はコンサルティングの現場で優秀な社員に出会うことが多いが、「どうしてこの会社の人は優秀なのだろうか」「育て方が違うのだろうか」「元々優秀な人が入社しているだけなのだろうか」と疑問に思う。逆もまた然りである。知名度が高い就職人気企業で、グローバルに活躍しているような会社であっても、40代にさしかかる頃には誰もがぱっとしなくなるような会社もある(もちろん一部の優秀層は除く)。入社した時にはハイポテンシャルな人たちを採用し、かつ鍛錬の機会・環境にも恵まれているはずなのに、どうしてこのようなことが起こるのだろうか。

人事統合で見えてくる「環境」の差

 
「資質」と「環境」の問題を考えるヒントになりそうな事例を紹介しよう。

ある販売業大手の事例である。この会社は5年前に、A社とB社が統合した会社である。

統合初年度に5年目の若手社員を対象に研修を行う機会があり、能力開発の目的で人材アセスメントを実施することになった。人材アセスメントとは、疑似的な場面を与え、そこでどのように行動するかを考えさせることで、再現性のある潜在能力を保有しているかどうかを測る能力診断のことである。

人材アセスメントの結果は、下図のように旧A社の社員と旧B社の社員で明確な差が表れた。差が出ることは予想していたが、ここまでの差が出るとは予想外だった。

図1.png

旧A社は職場で厳しく人を育てることで有名な会社で業績も伸びていたが、旧B社は変化への対応が遅く業績が低迷していた。入社時点でのポテンシャルは旧A社の社員に分があるにしても、ここまでスコアに差が出るのは、職場のマネジメントや上司の影響が大きいことがうかがえた。

同じ「環境」だとどうなる?


その3年後のことである。

5年目の若手社員の研修・人材アセスメントを再び行うことになった。この年の対象者は、入社時点ではまだ会社が統合していなかったが、入社後間もなくして会社の仕組みや業務プロセス、教育研修体系が統合される過程を経験してきた人たちである。ちなみに、統合新会社の制度・仕組み・システムは主に旧A社のものに統合された。

人材アセスメントの結果は、3年前の結果と違って、旧A社と旧B社でほぼ同じ分布となった(下図)。この結果も想定どおりではあったが、ここまで同じような分布になるとは意外であった。

図2.png

入社時の会社が別なので、ポテンシャルには差があるはずだが、業務プロセスやマネジメントシステム、人事・教育研修体系などの「環境」をそろえたことが(わずか数年でも)能力開発に大きな影響を与えていることがうかがえる。

成長するのに年齢は障害になりうるか?


もう少し上の年代になるとどうなるのだろうか。

この会社では統合初年度に、マネージャー候補層(30代前半)と部長候補層(40代)についてもアセスメントを実施している。マネージャー候補層のアセスメントの結果は、5年目社員の傾向とほとんど変わらなかった。

ところが、部長候補層で実施したアセスメントは少し変わった傾向を示した。

集団の平均で見れば、旧A社が高く、旧B社が低いのは他の階層と同じだったが、分布の広がりが大きくなり、かつニ山分布になっている(図はかなりデフォルメしているが、大まかな分布の傾向を示している)。また、大多数が分布している「山」に着目すると、旧A社と旧B社のスコアは実はあまり変わらない。

図3.png

ここからは推測であるが、旧A社の方が元々のポテンシャルと育成環境に優れていたと仮定した場合、旧A社で本当はもっと優秀だったはずの人が、平凡な(普通の)レベルにとどまってしまっている可能性がある。また、マネージャーを経験するという「環境」は、ポテンシャルと環境の面で恵まれていなかった旧B社の社員であっても、一定レベルまで能力を引き上げている、いう見方もできる。

平凡化してしまったハイポテンシャルを再び開花させる


このようなデータをヒントに、一般的な会社の課長クラスの人材分布を考えてみると、次のような構成になっているのではないかと想像される。

  1. ハイポテンシャルな上位層
  2. かつてハイポテンシャルだったのに平凡化してしまった層
  3. そこそこのポテンシャルのまま成長してきた層
  4. ローポテンシャルな下位層

このうち、1 のハイポテンシャル層と 4 のローポテンシャル層はあえて見つけ出そうとしなくても自然と浮かび上がってくるものだ。 3 の平凡層は、マネジメントシステムや人事・教育体系などの「環境」をうまく使えば、一定の範囲で底上げできるだろう。

注目したいのは、2 の「かつて優秀だったはずの層」である。どれだけハイポテンシャルな人を採用し、育成し、管理職に登用しても、1 のハイポテンシャル層となっていく社員は限られている。全員をハイポテンシャルのままで成長させるのは難しいのだ。かといって、この層を平凡なまま埋もれさせてしまうのは宝の持ち腐れである。 2 の「かつて優秀だったはずの層」をどのように見抜いて、どのような機会を与えればハイポテンシャル層に高確率で化けさせることができるのか、一部の企業では今真剣に考え始めている。企業の人材力を高める鍵は、この層をいかに底上げ出来るかにかかっていると言えよう。



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