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スティーブ・ジョブズのプレゼンと、芸人のフリップ

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スティーブ・ジョブズ氏が亡くなって3ヶ月以上が経ちました。僕は特別、ジョブズ氏に思い入れがあった訳ではありませんが、印象に残っているのは、iPod nano発表の際、ジョブズ氏がジーンズのポケットの中にある更に小さなポケット(コインポケットと言うらしい)からiPod nanoを取り出して言った「このポケットは今まで何の為にあるのかよくわからなかったが、今日初めてその使い方がわかった」というセリフです。これは本当にカッコイイ。

Steve Jobs painted portrait _DDC7924
Steve Jobs painted portrait _DDC7924 / Abode of Chaos

誰しもが、あんな魅力的なプレゼンをやってみたいと思うものです。資料には60ポイントのフォント、ただ一枚の写真のみでの印象付け。世の中で「良いプレゼン資料」とされるものは、シンプルで、見る人に強烈な印象を残すように作られています。

だから説明が色々書いてある「普通の」プレゼン資料を我々は軽視しがちですが、説明が色々書いてある資料も、時には必要なんじゃないか、と僕は思っています。

「ショー」と「商談」

一言に「プレゼン」と言っても、実際はいろいろです。スティーブ・ジョブズ氏がやっていたプレゼンは「ショー」です。では、日本中のあちこちで、営業マンが日常的にやっているプレゼンは?これは大抵の場合「ショー」では無く「商談」だと思います。

つまり、ジョブズ氏のスライドは、我々が商談のために使うプレゼン資料とは本質的に異なる「ショー用のスライド」であって、いわば芸人にとってのフリップのようなものです。

芸人はクイズ番組に出ると、フリップを解答を書くためのスベースでは無く、面白い事を書くためのスペースとして利用します。腕のある芸人であれば、何枚ものフリップを使って、解答を面白いスライドショーとして見せてくれたりします。

彼らはその面白い喋りの注目して欲しい所や、オチにフリップを持ってきて、インパクトを与えます。また、言葉だけだとバシッと決まらないオチでも、フリップと組み合わせる事で、文字や絵が情報を補足し、オチのセリフをインパクトのある一言だけで終わらせる事ができるようになります。それによって、決めゼリフの効果を最大限に引き出す、そんな効果が「芸人のフリップ」にはあるように思うのです。

フリップ方式と手元資料方式

容易に想像できる事ですが、この芸人のフリップ方式のプレゼンには、演技力に近い、特殊な能力が必要とされます。フリップをめくる事をエンターテイメントにする能力、みのもんたが喋りながら板書きのテープをめくるタイミングを計るような能力が必要になります。これは、誰にでもできる事ではありません。

しかし組織において、プレゼン資料は作った本人だけが使うものではない事がほとんどです。自分以外の営業マンや、パートナーさん、あるいはお客さんが上司に説明する際にも、プレゼン資料は使われます。そんな時、完全フリップ方式で作った資料だと、どう説明したらいいのか分からなくなる可能性が高いです。

そのため、自分以外の人が使う頻度の高いプレゼン資料については、大きなフォントのインパクトのある言葉で説明を誘導しつつも、小さいフォントでいくらか補足を入れて、慣れないプレゼンターの準備を楽にしたり、プレゼンを受けた人が後で見返した時に細かな情報を得ることができる「手元資料」としての役割を併せ持つ必要があるように思います。

世の中のプレゼン資料作成テクニックは、この辺りの事にはあまり触れていないような気がするのですが、作ったプレゼン資料を「ショーとして見せるのか、手元資料として使うのか?」というのは、結構重要なポイントではないでしょうか。

まあどちらにせよ、本当に大切なのは「伝えたい事」がそもそも何なのか、ですけれど。芸人で言えば「オチ」。商品で言えば「一言で理解できる本質」。それを定めることが、本当は一番難しいことです。

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