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日本のアニメーションから野生動物が消えつつある

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母と子育ての事について話していると、ちょくちょく昔のアニメの話になります。母親と言うのは子供と一緒にアニメとか子供番組を見ているもので、しかも大人の感覚でもって番組を視聴しているため、下手をすると僕よりも感慨を持ってアニメの内容を覚えているのです。

1972 Animal Drawing Stencils
1972 Animal Drawing Stencils / JD Hancock

「ほら、あれよかったやん。主人公が鳥に乗って旅するやつ*なあ~。あの鳥はなんやったかなあ。」「白鳥じゃない?」「いや!白鳥じゃない。白鳥とは違う!(正解はガチョウ**だそうです)」母が感慨を込めて語る「よかったアニメ」を聞いていると、どれもこれも、全部野生動物が出てくるやつだ、と気づいた次第。

そして改めて今のアニメ事情を思い返してみると、野生動物が出てるようなものはほとんど無い気がします。動物というキーワードでパッと思いつくのは「ハム太郎」くらいだけど、あれは完全ペットだからニュアンスが異なるし。

で、実際はどうなのか、というのを少し調べてみる事にしました。

1980年のアニメは野生動物の宝庫だった

僕の話の中で出てくる母の思い出は、1980年、僕が5歳の時くらいの頃が多いようなので、1980年のアニメ事情を調べて見る事にします。おあつらえ向きにウィキペディアにまとめがありましたので参考にさせてもらう事にしましょう。


この資料によると、1980年に放送されたアニメのうち、動物が出てくる(であろう)アニメは次の一覧の通りとなります。
  • トム・ソーヤーの冒険
  • 森の陽気な小人たちベルフィーとリルビット
  • ニルスのふしぎな旅
  • メーテルリンクの青い鳥 チルチルミチルの冒険旅行
  • ほえろブンブン
  • 釣りキチ三平
実際に出てきたかどうかまでは確認していませんが、wikipediaの解説から野生動物が出てくるのが確実と思われるものを選び出しています。

「ふたごのモンチッチ」は判断が難しいところですが、彼らからは野性が全く感じられないという事から、残念ながらこのリストの対象外となりました。

全体が32件ですから、1980年の野生動物比率は約20%となります。こうしてみると動物系以外に相当ヒーロー物が幅を効かせているので、母の記憶にはかなりフィルターが掛かっている事が感じられますが、20%という数字からは、この時代では野生動物が登場するアニメが「自然もの」とでも言えるひとつの勢力であった事が伺えます。

では現代はどうか。2010年のリストを見てみましょう。


...多すぎ。

なんか思ったよりも凄く多くなってます。100本くらいあるよ。アニメって昔より減ってるのかと思いましたが、増えてるんですね。そういえば深夜枠とかでたくさんやってるもんな。

正直ほとんどタイトルだけでチェックしましたが、動物もの、自然ものというジャンルは「0」だと思います。あ、これ動物ものかな、と思ったら萌え系だったりしますしね。もうよく分からないです。あっても1件とか2件でしょう。残念ですが、野生動物は現実の世界だけでなく、アニメの中でも絶滅の危機にあるようです。

2010年  野生動物はいなくなった

なんでこんな風になってしまったのか。理由は沢山あると思いますが、僕が感じるのは、動物や自然、そして物語に対する親近感、共感の変化です。

Astoak Gazeta auzoan, Elorrion
Astoak Gazeta auzoan, Elorrion / Joxe

野生動物に出会うシチュエーションというのは、自然とともに暮らす野生児とか、母を訪ねて三千里を歩く少年とか、動物をいじめて妖精に小さくされた農家の子*とかにこそ訪れるものですが、そんな境遇に本当に共感できるのは、恐らく僕達の親世代だけであって、僕達自身ではありません。

でも、まだ我々の世代であれば、親の生い立ちや昔話を聞いて育っているから、親という存在を通して、まだその世界観に共感を持つことができる。

しかし、今は親である僕達自身が昔のアニメがもつある種の説教くささとか、現在とは違う道徳観に完全には共感できていなくて、それを子供達に観させるという事にある種の後ろめたい意識というか、これは自分達が親から受け継いだノスタルジーに過ぎないという事をわかってしまっているんじゃないか。

そしてアニメを作ってる世代も、同じ理由で野生動物の棲む世界を描かないとしたら、アニメから野生動物が消えてしまったのも、本当に残念ながら、止むをえない自然の流れと言えるのでしょう。

でも、まあアニメの時代背景や道徳観も含めて理解してもらわなくても、古臭くも牧歌的な、野生動物が出てくるようなアニメの良さを分かるような感性は、何らかの方法で身につけてはもらいたいとは思っているのですが。

まあ、僕自身はむやみに野生動物に触れて育ったので、親から受け継いだノスタルジーを大切に、共に生きて行こうと思っています。

* 「ニルスのふしぎな旅
動物をいじめて妖精に小さくされた農家の子がガンガチョウに乗っていろんなところを旅する話。スウェーデンの紙幣にはこのニルスのふしぎな旅のキャラクターが印刷されているそうです。幼心に主題歌がとても印象に残っている。

** 12/7更新:下のTweetで気づいたのですが、ニルスが乗ってるのはガンでなくてガチョウで、仲間がガンだそうです。ややこしいな。ataboh_tetzさん、ありがとうございます。
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