クラウドの活用
企業情報システムの中にはすでにコモディティ化しており、その利用によって他社と大きく差別化ができるわけではないシステムが多数存在しています。
例えば Eメールです。すでに全ての企業に導入されている Eメールシステムにいまさら追加投資を行っても、リターンは社員の利便性の向上など極めて限定的です。グループウェアもとっくにコモディティ化しています。スケジュール管理、ワークフロー、文書管理、Web 会議といったシステムには戦略的差別化要素があまりありません。このように投資効果の低いコモディティ化したシステムは可能な限りアウトソースする事で、運用コスト、サポートコストの削減を図るべきですし、むやみにバージョンアップする必要性もありません。現在数多くのクラウドサービスがありますのでこれらのサービスを利用する事で固定費を変動費に移管する事が可能になります。
クラウドに移管する事で、企業はその時々で価格が安く機能的に優れたサービスへ適宜乗り換えていくことも容易になります。自分達で IT を持たない事により逆に自分達の製品選択の可能性が広がるわけです。電気代、場所代、保守サポート費用、運用費用、バージョンアップ費用、バックアップ費用、人件費など、システムの運用にかかる全費用を換算すると、これらの戦略性の低いシステムではあきらかにクラウドサービスの利用がコスト効果に優れています。
ITを新規に導入するときに見落としがちな事は、EOS(サポート切れ)の期間です。多くの場合ハードウェアも、ソフトウェアも、サポート期間は数年に設定されており、EOSを超えてシステムを継続使用するためには、超過コストが必要になります。特に日本の顧客は多くの場合多数のカスタマイズを行うため、それらの部分はバージョンアップ時には、再度テスト工数が必要となります。システム導入時には、長期的なバージョンアップの視点が非常に重用です。出来るだけ少ないカスタマイズで、出来るだけ長期的に使えるバージョンを選択する事がよりコストの削減に繋がります。そして、SasSのサービスではこれらのバージョンアップは、ベンダーが行なってくれますので、長期使用に関してもクラウドの方が有利と言えます。
ITコストの削減においては、CIO がリーダーシップをとり各部門と調整する事が重要になります。将来的なITのビジョンを明確にして、現状の業務を維持しながらも企業戦略に基づき優先度の低い IT コストを削減し、より企業戦略にマッチした投資にフォーカスするためには、CIO による強力なコントロールと戦略性が必要となります。コスト削減が必要となったときに日本企業においてやりがちな事は、全部門一律20%コスト削減といった、全体に配慮した戦略性のない意思決定です。これでは戦略的に継続が必要な投資すら削減してしまいます。CIO は戦略的な緊急度と企業戦略に留意して、IT 投資に重み付けを行う必要があります。
いざ IT コストを削減しようとしても、IT コストの内訳がブラック・ボックス化してしまっているために、根拠もなくベンダーに価格低減を求める以外に有効な投資抑制策を持っていない企業も決して少なくありません。しかしムリな価格低減に伴うサービスレベルの低下やベンダーの疲弊、人員の削減は、企業運営そのもののリスクとなりえます。ベンダーとの良好なパートナシップを維持し、IT 部門の士気を保ちながら、IT コストを最適化する事が CIO には求められるのです。
クラウドへのシフトも、部門や現場任せにするのではなく、CIOが戦略や基準を明確にして方針を明確にすべき課題です。