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プロジェクト管理・ポートフォリオ管理ツールの活用方法を中心に、IT投資管理の考え方をご紹介して行きます。

IT 資産の棚卸

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前回からの続きです

それでは膨大な既存システムをどのようにコスト削減していけば良いのでしょうか。最近だと、コスト削減の切り札は“クラウド”ですが、クラウドの利用もITの利用方法に依存します。車も短期的にはレンタカーや、リースを使った方が安いですが、長期的に毎日乗るのなら、買ったほうが安くなります。クラウドの活用にも「戦略」が重用です。

日本の IT 予算の特徴として、固定費の比率の高さが上げられます。通常日本企業の IT 予算は80%が固定費、20%が変動費と言われています。欧米企業では一般的に60%が固定費、40%が変動費ですので、日本の IT 予算がいかに固定費に突出しているのかがわかります。さらにこの固定費用の内訳はベンダーへの保守費であったり、ライセンス費用、IT 部門の人件費であったりと運用コストがほとんどです。しかし不況などで、いざ IT コストを削減しようとする場合にまず対象になるのが、残り20%の変動費用になります。これでは企業は新製品への対応や、新規売り上げの向上といった迅速に対応すべき経営課題に対して IT コストを投資することが出来ません。まずは80%の固定費を削減する事が重要になります。

固定費のコスト削減のためには、まずは IT 資産の棚卸と現状把握が重要です。特に日本の企業情報システムは様々なサブシステムの集合体です。どのシステムの情報をどのシステムが利用しているのかを紐解き、膨大な依存関係を明確にする作業が求められています。特に工場系や部門系のシステムは「とりあえず」その場しのぎで作成したにも関わらず、その後どんどん拡張されてしまい、ある種「準基幹システム」となってしまったものが多数あるため、その全容を解明する事はきわめて困難になりますし、全てを把握した人間がすでに社内にはいない場合や、開発したベンダーにも残っていない場合が多数あります。

これは、もしかしたら日本人の「もったいない精神」がもたらすものなのかもしれません。日本では20年同じシステムを使ったりするお客様が普通にいますが、欧米では5年程度でリプレースしてくのが一般的です。折角構築してもったいないからと、古いシステムを拡張し続けて使い続けた方が、実はトータルコストはより高額になります。スクラップ&ビルドで定期的にシステムを更新していく方がトータルコストは安くなるものです。

より戦略的に IT 投資を行うには、そもそもの企業戦略を明確にする事が重要です。部分最適の IT 投資ではなく全体最適化を進めていくためには、企業戦略に基づいた IT 戦略が必要とされます。
IT 投資は数年にわたる連続した投資です。今後の販売拠点の統合であったり、工場の移転、新製品の開発など、企業における様々なプライオリティを明確にして、その優先度を測定する事で、IT に求められてくるミッションが明確化します。このような長期的な企業戦略がIT戦略決定の際の重要な指針になります。

そして、企業を取り巻く環境は常に変動しています。災害の発生や為替の変動。テロの発生や物流の停滞など様々なリスクがビジネスには伴います。IT にもこのような環境の変動に対して迅速に適応できる短期的な戦略が求められます。長期戦略とあわせて短期での戦略が重要です。IT にも短期での企業戦略への迅速な追従が求められています。

IT資産の棚卸と、IT戦略の確立が、ITコスト削減に向けた、2つ目の作業となります。

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