製造業の開発戦略再構築の時代に
昨年末スバルが、昨年過去最高益を記録しました。今でも一部車種では納車待ちが続いています。アイサイトのような新技術もありますし、水平対向エンジンの付加価値もありますが、やはり国内競合メーカーと比較した際の、高い製品性と独自の戦略がこの最高益の大きな理由だと思います。スバルはトヨタと提携し、数年前に軽自動車生産を辞めて、セダン、ワゴン、RVといったプリミアム市場にフォーカスしました。他のメーカーがミニバンや経にばかり力を入れている中で国内では異例の選択です。
経済停滞が続きグローバル競争が厳しくなる中、多くの日本企業では、マーケティング主導の新製品開発が進み、低価格な機能の低い製品を多数発売してきました。例えばスバルと、同じセグメントの国内の他のメーカーの製品と比較してみると、国内大手メーカーがトーションビームのような価格を抑えたサスペンションを採用しているのに対して、スバルは独立懸架のサスペンションを採用し続けています。エンジンも低重心の水平対向を使用していまし、乗り比べれば確実に質感の高さを体感出来る事でしょう。
ナビや、リクライニング付きの豪華なシートがついていて値段は安い。そんな製品はたしかに一時的に新車効果で売上は上がりますが、長くは続きません。現在では発達したネット上の口コミ情報を誰もが簡単にアクセス出来るため、製品の本質が真摯に問われる時代です。どんなにCMや割引を行なってもこれらの評判如何では、販売は振るわなくなってしまいます。自動車のようなライフサイクルの長い製品は、基本品質が低い製品開発は、自分のクビを締める事になりがちです。途上国の海外生産に切り替えた逆輸入の新車も多くが成功していません。
しかしこれまで多くのメーカーは、短期的な売上を目標に過度に低価格な製品開発を行なってきました。これはかつて日本企業が技術重視で、営業サイドの声が製品開発に届いていなかった反省が、逆に今では営業サイドが過度に製品コンセプトに介入するようになってしまったためです。
しかし、短期的な売上重視の低価格製品は長期的には決して成功しません。日本人は品質に対して世界一厳しい事を再度確認すべきです。ネット上の口コミ情報に触れる機会の少ない、シルバー層にしか売れない車ばかり開発していては、ブランド価値も低下してしまいます。
現在円安が徐々に進んでおり、日本の製造業がやっと息を吹き替えそうとしています。また、チャイナリスクは拡大する一方であり、製造業の国内回帰が始まっています。震災以降消費者もこれまでのような低価格製品から、より付加価値の高い安心して使える製品へのマインドの変化も進んでいます。この失われた20年と呼ばれる、円高、デフレ、グローバル化という経営環境が、今大きく、円安、インフレ、国内市場重視に変化しようとしていています。日本の製造業は、これまでのグローバル化や低価格路線といったこれまでの路線から、高付加価値な競合力の大きな製品へと軸足を変える必要があります。
より付加価値の高い新製品を短時間で開発するためには、これまでの製品開発の手法を大きく変える必要があります。現在の国内製造業の衰退の一つの原因は、技術志向とマーケティグ志向の間でバランスが取れていない意志決定にありました。技術面重視の製品開発を行なってしまうと、液晶パネルに固執してしまった家電メーカーのような事例になりますし、価格価値を重視しすぎて技術性をおざなりにすると、シルバー層にしか売れない自動車になってしまいます。
品質が高い製品を、適切な価格で競合メーカーと比較してスピーディーに発売するためには、技術面、製品面、そして、市場性、競合性といった様々な要素をバランス良く判断する事が重要です。様々な要素を取り入れてバランスの良い製品ポートフォリオを組むことが重要です。そのためには属人性を廃した「仕組み」作りが重要になります。新製品の各要素の開発、要素の集合体としての製品の開発、それぞれにおいて、ステージゲート手法を取り入れてポートフォリオに基づく意志決定と、さらに個々の製品の開発原価を明確にする事で、企業は製品戦略をより高める事が可能になります。
個々の製品の開発原価を明確にする事は、多くの場合極めて困難です。製品は要素技術の集合体であり、各要素技術の開発にこれまでどれだけどコストが費やされているのかを把握する事は簡単ではありません。しかし、限られた開発予算を適切に配分し、市場性の高い製品開発に優先的に投資するためには、これらのプロセスとコストを一元的に管理する仕組みが重要です。