レガシーなテクノロジー
これまで大学で単発の特別講座を担当する事はあったが、とある大学で来年度半期を通じた講座を担当することになった。コンピュータの世界ではWeb2.0だの、Rubyだの、Perlだの新しいテクノロジーが花盛りであるが、会計とか販売管理といったいわゆる企業の基幹システムの多くは、まだまだレガシーと呼ばれるテクノロジーを前提に動いている。こういった実態にも学生の目を向かせたいが、大学独力ではなかなか実現は困難だというのがその動機にあるようだ。一方で将来の社員だかお客様に、今のうちからよいイメージを植え付けておきたいという、会社の思惑とが一致したのだろう。ビジネスにおけるコンピュータといったような題目を想定して13回分の講義予定表を提出したところ、教授会で承認してもらえたとのことだ。
これの中身は、これまでに製品企画担当者として、様々な題目で社内やビジネス・パートナー向けセミナーの場で話してきたことの集大成である。とは言っても元々が基礎知識を持った人を相手にするのと、レガシーなんて知らない大学生を相手にするのでは、資料の作り方から話の展開の仕方までかなりの見直しをした方がよさそうだ。僕にはどの程度まで丁寧に話をするべきかという加減がまだ身についていないので、かなりの注意を払わなければならないだろう。大分以前の話であるが、とある大学院での講座では話が速過ぎてついていけないとの評価があった。自分にとっての常識と、話を聞く側の常識とにかなりの隔たりがあったにも関わらず、想定が甘かったのだろう。やはり話をする時には相手の常識に合わせなければ。
と言いつつも講義内容が100%固まっているわけではない。自分の知識としてまだ不明だったりあやふやな部分が残されていたりする。引き受けた以上は放っておくわけにもいかないので、実は今さらのように勉強を始めている。念を入れるためにコンピュータ・アーキテクチャの基本から学ぼうと、大枚はたいて専門書を買い込み最近読み始めた。アーキテクチャという基礎概念に徹しているので、レガシーだとかWebだとかは関係ない。最初は結構知っていることばかりだなと思っていたのであるが、次第に咀嚼困難になり意思が途切れてしまいそうである。ここで年齢を言い訳にして途中で挫折することを正当化してしまっては年寄りの始まりになりかねないし、最後まで読まなくても講義に直接は関係なさそうだが、脳細胞の訓練だと思って取り組んでいる。
さて、企業の業務基盤を支えているシステムを若い人が習得しようとしないのは、コンピュータ業界だけでなく、ビジネス面からも危機を迎えつつある状況にあると言えるだろう。これまでテクノロジーの目先をあれこれ変えることだけで需要を作り出してきた業界の責任かもしれない。いずれきっとレガシーを見直そうというブームがやって来て、その時には僕等が最先端にいる、となれば思う壺なんだけどな。