『ザ・サークル』──ザックの目標「世界を透明にし、すべての人をつなげる」が実現したら
書評を見て本を買うことはあまりないのですが、日経日曜版(3月1日)で「現在のグーグルやフェイスブック、ツイッターなどありとあらゆるインターネット産業を統合したかのような巨大企業「サークル」の広大なる職場「キャンパス」を舞台に、そこへ就職したヒロインのメイ・ホランドがさまざまな困難に見舞われながら、みるみる頭角を現し、何と同企業の象徴的存在にまで昇りつめて行く歩みを中心に描く」と紹介されていた「ザ・サークル」のKindle版を読んでみました。
ざっくり言うと、「Don't Be Evil」を標榜するGoogleと同様に、世界のためになろうという理想を持つ3人の共同創業者(シュミットは創業者じゃないけど、ちょっとGoogleの3人みたい)が築き上げた大企業が、Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOの目標である「世界をよりオープンに、つながれたものにすること」を達成しちゃうというお話。
著者のデイヴ・エガーズはシリコンバレーの企業のキャンパスを取材したこともないと言ってるそうですが、社内の描写はまるでGoogleが計画中の新キャンパスみたい(社内の無料レストランとか福利厚生の充実度とか)。
同社のサービスのアカウント、TruYou(本当のあなた)が実名必須で検索からSNS、支払いまですべてで使い、データが蓄積されてよりよいサービスのために使われる、というところもGoogleっぽい。他にもいくつか出てくるサービスのアイデアはいずれも既存のものの延長線上にありそうです(悪い意味ではなく現実味があるなと)。
この会社は人々がつながることを重視するので、社員にもソーシャルであることを強要(義務ではないけどね、と言いながら強要)します。主人公のメイはもともとはそうソーシャルな人ではないのに、過剰適応するマジメで単純なタイプなので、努力して仮想のソーシャル性(サークルの内外でのランキングが高くなること)を身につけていきます。この辺の中毒性みたいなのは「あるある」な感じです。
で、最終的にサークル1社で少なくとも米国の政府をも支配して完全に透明でつながった世界を構築できちゃいましたー、ということなんですが、もちろんご想像通りこれはディストピア的な完全管理社会になってます。
良かれと思ったとしても、こういう考え方は1984になっちゃうんだよという警鐘を鳴らしたかったのかな。
ザックが今でも「世界はこれから、1つの生命体のようになるし、僕らは皆、その生命体の細胞のようなものになると思うんだ。そして細胞どうしと同じように、あらゆる情報を自動的に共有して、自他の境目なしに連携し合うんだ」と思っているかどうかは不明ですが、この本を読んだらどう思うか知りたいかも(ザックの今年の目標は毎月1冊本を読むことだし)。
ちなみに上記のザックの言葉は、キャサリン・ロッシ著「フェイスブック 子どもじみた王国(オリジナルタイトルは「Boy Kings」)」に出てくるものです。ロッシさんは「ザ・サークルは私の本のまねっこ!」と怒ってたそうです(その書き込みはもう自分で削除したみたいですが)。エガーズは否定してますが、ヒントにはなったんじゃないかなぁ。