スマート革命とサーバーの未来、64ビットARMの登場はデータセンターの単なる価格破壊だけなのか!!?
<序文>
スマートフォンやスマートタブレットなどに使われているARMプロセッサーに64ビット版が発表されました。技術カンファレンス「ARM Techcon 2012」における発表です。2013年から14年にかけて64ビット版のCPU部品が出荷されます。各社がARMから設計ライセンスを受けて実際にARMプロセッサーの開発にはいります。
またその動きと騎を一にしてARMサーバ向けLinuxの動きも活発化してきました。米国ではHPやフェースブックなどが参加して「データセンターでのARMプロセッサーの活用を考える研究会(The Linaro Enterprise Group)」が発足しています。元々はスマートテレビなどの生活者用スマートデバイスのプロセッサー研究グループだそうです。
これはサーバーを支えるインテルには大きな警告です。
これは一種のダウンサイジングの再来と言った見方があります。
しかし一人七台のスマート機器を使いこなすスマート革命の時代を象徴する「スマート革命時代を特徴付ける性格も持っている」と見られ始めています。
スマート革命の中心部品であるARMプロセッサーが齎す「疾風怒濤の時代」の特徴を考えてみました。
★★ ARMが次期CPUコア「Cortex-A57」と「Cortex-A53」を発表
★★ ARM向けLinuxを改良するLinaroに米AMD、米HP、米レッドハットなどが参加、サーバー用途推進へ
★★ ARMサーバ向けLinux、レッドハットやフェイスブックが開発プロジェクトに参加
★★ ARM vs. Intel: Servers The Size Of A Smartphone?
リナリオのグループのCEO(右)とARMのCEO(左)
ARMのプライベート・イベント「TechCon」
<出所:コンピューターワールド>
<ARMプロセッサーとスマート革命>
リードライトウエッブの記事によれば、ARMプロセッサーの特徴は①サイズが小さい②値段が安い③電気の消費量が抜群に少ない。特に電気の消費量はインテルプロセッサーの80ワットに対して僅か4ワットだそうです。またパワー不足は複数のコアCPUを組み合わせて実現します。
その結果、サイズが小さく、安く、省エネを実現する夢のプロセッサーが誕生する可能性が高まりました。
この動きを推進するThe Linaro Enterprise GroupにはHPやフェースブック、レッドハット、サムスンなどの他にAMDまで参加しています。今後このグループにはプライベートクラウド化を推進する多くのユーザー企業が参加する可能性があります。
ここまでは90年代に勃発した大型汎用機からサーバーへのダウンサイジングとさして変わりません。しかし今回の動きには時代の特徴があります。
<インテルからARMに移行するデータセンターの特徴はサービス支配論理>
既にアマゾンのAWSなどで明らかですが、パブリックであれ、プライベートであれクラウドサービスの特徴は「性能と言うサービスの保証」です。これは一種のサービス支配論理です。その結果、「性能と言うサービスの保証」さえなされれば、サーバーデバイスの仕様は、最低限で良く、過剰品質な機器は不要な時代となりました。これはスマート革命で言う仕様の死です。アマゾンのキンドルがサムスンやソニーに劣ると言われているにも拘らず売れている状況は「仕様の死」と言われています。
例えば安いサーバー群の上にアマゾンは①即使える(アジャイル)②スケーラブル③低価格④セキュリティとコンプライアンスに対応したサービス力(サービス支配論理)で勝負しています。これはその上に電子書籍販売など電子店舗サービスを載せたアマゾンキンドルの原価販売と同じサービス支配論理です。
企業のデータセンターも機器プラットフォーム上のアプリのサービス力で勝負する方向ですが、これもサービス支配論理です。SaaSなどの意味を捉え返せばそういう意味になります。そしてその上に素晴らしいビジネス経験を提供します。
<無印良品の機器が好まれる時代>
クラウドサービスにおいては、ソフトウエアはオープンソースが持て囃され、ハードウエア機器は、無印良品的な安くて良いものが好まれています。その結果、ブランド品は過剰品質、過剰コストとして売れなくなり、IBMやオラクル、HPなどは2012年には、押し並べてサーバー機器の売り上げ数字が下がり始めています。フェースブックはデータセンターやサーバーに関しては独自の設計を行い、ブランド品では無く、台湾のクアンタ(広達電脳=Quanta Computer)から無印良品を調達して組み立てています。同じことはアマゾンやグーグルにもあてはまります。
サーバーのブランド品は最早、売れません。まさに仕様の死です。
<遂にプロセッサーも無印良品時代へ>
ARMプロセッサーの問題はアンドロイドと同じでARMからのライセンスに基づく設計の為、各社でばらばら化が進展している点です。
しかし英国ARM社にライセンス料を支払えば、誰でもプロセッサーが作れるため無印良品化が確実に進みます。
こうしてプロセッサーが安く、小さく、省エネ化する中、データセンター自体も安く、小さく、省エネ化が進むのでしょうか。
スペックの死によりブランド部分がはげ落ち、機能美に比すべきシンプルな設計のサーバー機器の上に「性能と言うサービス」が保証される時代が来ました。
こうしてサーバー機器の価値がどんどん下がり、その上のサービス価値が上がります。64ビットARMプロセッサーの登場により、正にデータセンターに於いてモノ支配論理からサービス支配論理への移行が促進されるでしょう。スマート機器群の上に生えでたサービス(クラウドコンピューティング)が一歩進みました。