なぜそれをやるのか?:SEALの創設者に創業の想いを聞く
詐欺の中からまともな企業を見つける方法
ブロックチェーン業界は、ビジネスとして成功するしない以前に資金調達だけをしようとしている詐欺がほとんどだと言われている。たしかにブロックチェーン企業の資金調達は、株式とは異なりトークン(仮想通貨)の発行で行われ、仮に発行量の51%以上を取得できたとしても、保有者は何の権限もない。企業側からしたら、ほぼ無条件に大量の資金が集まるため、詐欺が集まりやすいわけだ。
だから、ブロックチェーン企業を見極める際、僕は技術的な条件の他に、いくつかの基準を設けている。1つ目は創設者の経歴と想い。なお、キャリアについては、サイトの情報は偽りが多いので、必ずLinkedInの情報を確認するのが重要であり、ただ単にどの企業にいたのかといったことだけでなく、その企業でのポジションと在籍期間も重要だ(以前、経歴に大手企業の名前を3社くらい並べているメンバーが、各社に7カ月程度しかいなかったというケースがあった)。創設者の想いは、本気で課題解決をしようと思っているのか、会社を成功まで導く覚悟ができているのかなどといった定性的な内容だが、ベンチャーの成功にはこれが最も重要だと言われている。2つ目は商品のプロトタイプがあるか否か。ある調査によると、資金調達後も着実に商品開発と提携をしながら結果を出し続けている企業の9割以上ははじめからプロトタイプがあったとのこと。したがって、MVPの有無は必ず確認が必要。そして、3つ目はターゲット市場とビジネスモデル(市場規模だけでなく、どこまでブロックチェーンの応用が可能なのか、参入障壁や成功の決め手となる要素)。
SEAL(シール)はまだICOといって、トークン発行を通じた資金調達真っ最中の企業だ。だが、事前調査に加えて、CEOであるバート氏との複数回にわたる電話でのやり取りの結果、有望な企業であると判断したため、その内容をこちらに紹介する。
二人のキャリアについて教えてください。
バート氏:「今はオランダにいますが、実は私と弟のヨリスは日本に親近感を持っています。私はデルを経て2009年に弟のヨリスとゲーム会社を設立したのですが、ちょうどカードバトルが流行っていた時期に、日本のグリー社と共に、ソーシャルゲームでの協業についてディスカッションを上層部の方々と行っており、何回も日本に出張で行っていたのです。結局その時の話は実現しませんでしたが、日本についてはとても良い思い出があります。その後私はデロイトでコンサルタントとして働き、ビッグデータとブロックチェーンにかかわる仕事をしていました。」
高山:「なるほど、コンサルタントとしてブロックチェーンにかかわっていて、それがきっかけで自ら作ることになったんですね。」
バート氏:「キャリアだけ説明すると、デロイトでの仕事から起業したように聞こえるかもしれませんが、実はいくつかのきっかけがあるのです。一つはブロックチェーンとのかかわりです。実はヨリスと立ち上げたゲーム会社で、6年前にゲーム用のハードウェアを使ってマイニングを行っていたのです。今でも覚えていますよ。オランダの冬は寒いのですが、私たちのオフィスはマイニングでハードウェアが熱くなりすぎて、夏のようでした。(笑)。もう一つは着目した課題である偽造問題です。私の趣味はカード集めなのですが、カードによっては10,000ユーロ(100万円)を超えるものもあります。コレクターとして一番心配なのは、そこまで高価なカードを買う時に、それがニセモノではないかということです。どうにかして知らない人からカードを買い、そしてまた知らない人へ売るとき、互いにカードがホンモノだという確認ができる方法がないかというのを考えていたのです。」
高山:「よくその2つの点が結び付きましたね。」
バート氏:「弟のヨリスはシリアル・アントレプレナーで、過去に私との会社以外にも設立経験があるため、兄弟で相談した結果起業を決心しました。ヨリスはプログラミングを6歳のころからやっており、様々なソリューションの開発や今でも大手企業へのITコンサルティングをやっている経験があるため、シールでも技術面はすべて任せています。そんなヨリスと話しながら、ニセモノ問題はカードゲームだけでなく、高級ブランドにおいてもほぼ同じスキームで起きていることを知りました。」
創業者に関する感想
バート氏は元デロイトのコンサルタントでありメンサのメンバーでもある非常に頭の良い人だ。だが、話していて感じたのは、非常に「オタク」っぽい側面もあると同時に、シールのやろうとしていることを信じていて、本当に好きで語っている、素直で幼い少年のような側面であった。ブロックチェーンの技術はまだ未熟であり、次回以降のバート氏とのインタビューにて紹介していくが、シールも現状のイーサリアムから独立して独自のブロックチェーンを開発する予定とのこと。そういった中で、まだどの企業が成功するかはわからないが、ただ単に金儲けだけを考えているのではなく、自分が身をもって体験した問題を解決したくて生まれた事業というのは、話を聞いていてもとても説得力があり応援したいと思った。
次回からはビジネスの詳細について紹介していく。