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GPT-5でハルシネーションが減ったわけ ~OpenAIの論文から

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ユーザー企業が生成AIの導入を検討するときに、プライバシーや情報漏洩と共に懸念材料として挙げられるのが、「ハルシネーション(幻覚)」です。これは、生成AIの本体であるLLM(Large Language Model:大規模言語モデル)が、間違ったことを自信たっぷりに答えてしまうという現象で、ChatGPTが公開された当時から問題視されていました。

そのような中、ChatGPTの開発元であるOpenAIが、なぜ生成AIでハルシネーションが起きるのか、どうしたら減らせるのか、そしてGPT-5でハルシネーションが激減した理由について論文を公開しました。しかし、内容には納得できるものの、何かすっきりしない気持ちになります。

byouki_genkaku.png現在の生成AIでは、仕組み上ハルシネーションを無くすことはできないとされていますが、生成AIベンダーはハルシネーションを減らすための工夫を重ね、現在ではハルシネーション率はかなり下がり、今では間違いを起こす確率は人間よりも低くなったとも言われています。しかし、人間は自分には甘く、他には厳しいもの。AIが起こす間違いには相変わらず厳しい目が向けられています。

Why language models hallucinate

これがOpenAIの論文です。ハルシネーションが起きる理由などはこれまで指摘されていたこととも合致しますが、私が注目したのは最新のGPT-5と旧バージョンo4-miniのハルシネーション率の比較表です。

「答えない」=「改善」で良いのか?

o4-miniでは、ベンチマークに対して正確な答えを返す確率が24%、間違いが75%と、ハルシネーションの率は非常に高くなっています。残りの1%は「棄権」で、「わからない」と返すパターンですね。これに対し、GPT-5では正確な答えを返す確率は22%と低くなりますが、間違いは26%と激減しています。これをもってGPT-5のハルシネーションは減った、ということになるわけですが、実は「棄権」が52%になっているのです。

間違いが正解になったわけではなく、間違いを「わからない」にした結果、間違いが減った、という状況なわけです。まあ、ハルシネーションが減ったことは事実ですし、間違いを認めないよりはよほど良いのですが、なんともモヤモヤする話ではあります。

ただまあ、私たちも日常、実はわからないのに憶測で行動して失敗することはたくさんあり、「わからないことはわからないと言いましょう」みたいなことも言われますので、AIがより人間に近づいたと見ることもできますけれど。

OpenAIの論文では「正確性が100%に達することは決してない。」と明言しており、ハルシネーションについては「防ぐことはできる。言語モデルは不確かな場合、回答を控えることができます。」ということですので、今後もハルシネーション対策としては「棄権」が最も有効な手段と考えているようです。

しかし、OpenAI自身がハルシネーションへの取り組み方法を明確にしたのは良いことです。これまでOpenAIを含む一部ベンダーは、AIへの期待を煽ることでビジネスを拡大してきた面があります。しかし、AIはただのツールであり、そう簡単に人間を置き換えるものでもありません。AIの限界を知り、使えるところだけ使いこなすことが賢い姿勢なのだと思います。

 

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