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Appleが独自チップで目指す理想のMacとは

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AppleのWWDCで、かねてより噂のArm版Macが発表されました。新型Macは年内に出荷予定とのことで、これは予想よりも早かったですね。その後2年をかけて移行するということです。

速報:アップル、Macの独自チップ移行を正式発表。初のARM版Macは年内 #WWDC20

新プロセッサ(Apple Silicon)は、「iPad Pro のために開発したハイパフォーマンス、Apple Watch で培った省電力など、過去10年20億台の Aシリーズ技術を結集し、さらにデスクトップ向けの新技術を投入した製品。」とのことで、Armベースとなります。

この移行の最大のメリットは、iPhoneやiPadなどのアプリがそのまま使えるようになることです。iPhone/iPadはArmベースのAxxプロセッサを使っており、MacはIntelです。プロセッサが違うため、アプリをそのまま使うことはできません。MacをArmベースに変更することで、両者で同じアプリを使えるようになります。これはMacユーザーにとっては大きなメリットでしょう。

互換性を実現するためにはiPhone/iPadをIntelベースに変更する、というアプローチもありますが、台数の差を考えると、Mac側を変える方が全体への影響は少ないはずです。それに、Intelにはモバイル用のプロセッサがありません。Mac側を変えるというのは理にかなっています。

smartphone_computer_nouka.pngデメリットとしては、Intel版Macとの互換性が失われることがあります。今Intel版Macで使っているアプリは、Arm版Macではそのままは動かず、Arm版Mac用のアプリ(少なくとも再コンパイルした)に差替える必要があります。AdobeやMicrosoftなどの大手のアプリは対応してくれるでしょうが、小さなデベロッパや個人が提供しているアプリでは時間がかかることも予想されますし、もう開発元が存在しない場合にはお手上げです。

こちらの記事にもありますが、AppleはこれまでにMacのCPUを2回(Motorolla 68K→PowerPC→Intel)変えています。そのたびにバイナリ互換性は失われ、ユーザーはひどい目にあったのですが、今回はどうなることでしょうか。相変わらずシェアは低いとはいえ、今回は前回(2006年)よりもMacユーザーは多くなっていますし、ユーザー層も以前とは違ってマニアばかりではないので、一定の混乱はありそうです。(デザインだけでMacを買ったような人は、バイナリ互換が失われると言うことの意味がわからないかもしれません)一応IntelアプリをArm上で動かすためのエミュレータは用意されるようですが、こういったツールは過去にも提供され、概ね使い物にならなかった記憶があります。まあ、クラウドが一般化していますから、せいぜいブラウザとOfficeさえ動けば良い、という考え方もできますし、Macで利用率の高いAdobe製品も今はサブスクリプションへ移行していますので、ユーザー側で困ることは少なくなっているという見方もあり、むしろiOSアプリがそのまま動く方がありがたい面も多いのでしょう。

Microsoftは自社の強みが互換性にあることを理解していますので、Windowsの互換性維持には多大な労力を割いています。Arm版WindowsでもIntelバイナリをなんとか動かそうとしています。この辺、AppleのユーザーはApple好きが多く、Appleの我が儘(?)に寛容であることも影響しているのかも知れません。

Armへの移行でAppleが実現したいこと

ただ、AppleはiPhone/iPadとの互換性のためだけにArmへの移行を行うわけではないでしょう。重要なのは、新プロセッサは、「Appleの理想」を具現化できるプロセッサである、ということです。

ハードウェアとOS/アプリ/サービスを一体で開発して高度なユーザーエクスペリエンスを目指すのがApple流です。iPhone/iPadでは早くからArmベースのAシリーズプロセッサを搭載していますが、グラフィックス性能の強化やAI性能の強化など、他社が採用している汎用プロセッサでは不可能な機能を持たせることで、他社スマホとの差別化を図ってきました。それを今度はMacでも実現させたい、ということなのではないでしょうか。

IntelやSamsung、Qualcommなどのチップメーカーは、ユーザー(デバイスメーカー)の求めに応じて様々な機能を実現させていますが、それはどうしても「最大公約数」にならざるを得ません。Appleは自らArmベースの独自チップを開発することで、Appleが考える理想の機能を実現するための専用プロセッサを開発することにしたのです。

最新のA13プロセッサは、モバイルプロセッサとしては最高レベルのパフォーマンスと電力効率を誇っていますので、実装スペースに余裕のあるMac版では、さらに高性能で、多様な機能をもたせることができるでしょう。まだ今後の詳細な計画はわかりませんが、Macbook用には省電力と高性能を両立したプロセッサ、Mac Pro用に究極のグラフィックス性能と演算能力を持たせたプロセッサなど、機種毎に特徴を際立たせ、しかも全機種に高度なAI処理とセキュリティを持たせる、といったような展開になるのではないかと思います。

これまでの「汎用チップ」のくびきから解き放たれ、自由に「理想」を追うことができるAppleがどこへ向かうのか、楽しみです。

 

「?」をそのままにしておかないために

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Comment(1)

コメント

jecht

アラン・ケイの名言ですね。
「ソフトウェアに対して本当に真剣な人は、独自のハードウェアを作るべきだ。」
Appleは創業当初からこれを地で行ってますからね。

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