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パーキンソン病に立ち向かうiPhoneアプリ

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スマート「フォン」は文字通り「電話」なわけですが、「スマート」の方に目を向ければ、通信機能を持った高度なセンサー端末という側面が見えてきます。その側面を利用した様々なアプリケーションが登場してきているのはご存知の通り。それは医療の分野でも例外ではなく、最近もパーキンソン病患者を支援するためのiPhoneアプリが開発中というニュースが出ています:

iPhone app may help monitor Parkinson's disease (R&D Mag)

アプリの名前は"iTrem"。パーキンソン病の症状の1つに体のふるえ(tremor)がありますが、このふるえをiPhoneの加速度センサーで捕捉、データを研究者に転送するという仕組みのこと。現在もふるえで病気の進行を把握するということが行われているそうなのですが、通院してもらう手間が省ける上に、より頻繁にデータを取れるという利点が期待されているそうです。

開発にあたっているのはジョージア工科大学の研究機関、GTRI(Georgia Tech Research Institute)の研究者たち。アプリは今年後半のリリースを予定しているとのことですが、その前にエモリー大学で実証実験が行われ、医療機器としてFDA(米食品医薬品局)の承認を取るという計画なのだとか。つまりそれだけ本格的なアプリの開発が目指されているということですね。

"We expect iTrem to be a very useful tool for patients and their caregivers," said Brian Parise, a research scientist who is principal investigator for the project along with Robert Delano, another GTRI research scientist. "And as a downloadable application, it also promises to be convenient and cost-effective."

GTRIの研究科学者で、同僚のRobert Delanoと共にプロジェクトの研究責任者を務めているBrian Pariseは次のように語っている。「私たちは、iTremが患者や介護者にとって非常に役立つツールになると期待しています。ダウンロードによって入手可能なアプリケーションとすることで、便利で費用対効果の高いものになることも期待できるでしょう。」

「ふるえ」に関するデータ収集は患者の症状把握・適切な処置の実施という直接的なメリットを実現するために使われることに加え、大量のデータが蓄積されることで、パーキンソン病そのもののメカニズムを解明するのに寄与することも期待されているのだとか。またこのアプリで興味深いのは、単に症状に関するデータを採集するという機能だけでなく、患者やその関係者らをつなげるソーシャルな機能も開発されているという点。自分の体験談や写真などをユーザー間でシェアする機能が検討されているそうです。

今日は他にも、皮膚がんを診断するアプリが登場したというニュースもありました:

肌の写真から皮膚癌の可能性を判断するiPhoneアプリSkin Scan (TechCrunch Japan)

こちらはiPhoneのカメラと画像解析技術を組み合わせることで、皮膚がんの簡単な初期診断を行うというもの。僕もダウンロードして試してみましたが、単に診断を行うだけでなく、2枚以上の画像を比較して症状の進行を把握する・周囲にいる医師にその場で連絡を取るといった機能も実装されているようです。またiTremと同じく、アプリを通じて集められたデータを蓄積・シェアするという発想が、「その地域の皮膚の健康度も地図入りで教えてくれる」という機能として実現されています。

このように「ふるえ」や身体の外見といった(潜在的)症状を、スマートフォンを通じてデータ化することで、医師や研究者らへのフィードバック・同じ症状の患者間での交流といったメリットを生み出すことができるわけですね。最近ではiPhoneに専用の検知機器を接続することで、吐いた息からアルコール値をチェックするアプリなども登場していますし、モニタリングの対象とする症状・身体上の変化は今後さらに増えて行くことでしょう。もちろん「スマートフォン+アプリ」が病気に対してできることには限界がありますが(Skin Scanもあくまで「気になったら専門医に相談して」というスタンスです)、患者と医師、研究者、そして潜在患者の距離をごく小さいものにする仕組みとして、そして社会全体という視点から病気を把握するための仕組みとして、重要な存在になるのではないでしょうか。

これからスマートフォンが起こすこと。 これからスマートフォンが起こすこと。
本田 雅一

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