「タバコ部屋としてのニュースサイト」と日経電子版
日経電子版の有料会員(月額4,000円のコース)に登録し、使い始めて2週間が経ちました。個人的には、お世辞や皮肉をまったく抜きにして、情報収集に役立ってくれているというのが第一の印象。仕事がら外出や常駐ということが多いので、どこでも記事が確認できるというのはやはり便利です。キーワードを登録しておくことで関連記事を自動収集してくれ、朝晩の2回メールで通知してくれる機能も、基本とはいえ重宝しています。
ただ1つだけ納得できないのは、はてなブックマークとの連動が考えられていないこと。現在はてなブックマーク上では、こんな風に日経電子版とのコラボ企画が行われているにも関わらず、です:
まだどのような条件で発生するかは正確に掴んでいないのですが、ブックマークしようとすると、正常に処理が終了したにも関わらずヘルプ画面へのリンクが生成されてしまうことがあります。どうも有料化の影響のようですが、僕はブックマークした記事が自動的にTwitterにも流れるようにしているので、ヘンなツイートが投稿されてしまわないようにブクマした後に再確認することが必須に。時間がないときは「もういい!」という気持ちになってしまい、日経の記事をブクマしないことが増えています。
とはいえ日経電子版は始まったばかりですので、まだシステム的な不具合もあるのかな……と考えていたのですが、昨日こんなページがあることを知りました。それも他ならぬはてなブックマーク経由で:
「日本経済新聞 電子版」のフロントページや専門サイトのトップページへのリンクは原則として自由ですが、リンクを張る場合は、リンク先のページとURL、リンク元のホームページの内容とURL、リンクの目的などを記載してお問い合わせページでご連絡ください。
とのことで、続く解説の中では「個別記事へのリンク」が明確に否定されています。もちろん杓子定規な対応が行われるなどとは思っていませんが、先ほどの「不具合」のことと合わせて考えると、どうもソーシャルメディアとの連携は望んでいないのではないかという不安を感じます。
ところで、英語には”water cooler talk”という表現があります。「ウォータークーラー」とは、オフィスに置かれている飲み水が入った大きなボトルのこと(日本のオフィスで設置するところも普通になりましたね)。このウォータークーラーの周りに休憩する人々が集まり、井戸端会議的におしゃべりすることを表した言葉ですが、この”water cooler talk”から重要な情報が伝達されることもあります。個人的に、日本でウォータークーラーに相当するのは(その善し悪しは別にして)「タバコ部屋」だと考えているのですが、まさに何気ない場所から人々のつながりやコミュニケーションというものが生まれていくわけですね。
実は先日も取り上げましたが、米国で行われた調査で、多くの人々が「友人や同僚たちと語り合うために」ニュースを摂取しているという結果が出ています。もちろん情報そのものが価値になる場合もあるでしょうが、多くの場合はニュース記事はコモディティであり、それを介して得られる経験の方が重要になっていると(個人的にも「はてなブックマークでブクマした記事をTwitterに流す」という行為は、それによって生まれるディスカッションを期待してのことです)。そう考えると、ソーシャルブックマークのように「何らかのニュースを中核としてディスカッションができる」サービスというのは、オンライン上のウォータークーラー、もしくはタバコ部屋を提供していると考えられるかもしれません。
もちろんタバコ部屋に情報が転がっているからといって、お金を出してまで入ろうという人はそれほど多くないでしょう。無料で使えるウォータークーラーの周りに無数の人々が集まっているからといって、その状況をすぐに換金できるとは限りません。従って日経電子版のように、あくまでも”paywall”(ウェブサイトを有料化してアクセスを制限すること)を構築してその中に魅力的なコンテンツを用意する、というのも1つの有力なビジネスモデルだと思います。しかし多くの人々がニュースサイトに「コンテンツ」ではなく「体験」を求めているという状況に、新聞社は目を向けるべきではないでしょうか。外部との連携は難しくても、日経電子版はせめて各記事にコメント欄をつけるぐらいの冒険をして欲しいなぁ、などと感じてしまった次第です。
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