【書評】『フリー <無料>からお金を生みだす新戦略』
先週の金曜日、『フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略』の出版を記念するイベントが開かれ、同書を文字通り「無料」でいただいてきました。以前原書を読み、既に書評も書いているのですが、改めて日本語版を読んだ感想を書いておきたいと思います。
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『フリー』は大ヒットした前作『ロングテール』の著者としても有名な、『ワイアード』誌編集長のクリス・アンダーソン氏の最新作。「無料からお金を生みだす新戦略」という副題からも分かるように、最近ネットの世界を中心に拡大しつつある「無料ビジネス」をテーマにして、様々な事例と理論がまとめられています。なぜ無料ビジネスが成立するのか、どのような種類があるのか、どうすれば自分のビジネスで無料モデルを応用できるか――ネットビジネスに関わっている人は当然として、それ以外の人々にとっても必読の一冊でしょう。いやむしろ、旧態依然とした業界で働いている方々の方が、この本から生みだせるチャンスは大きいかもしれません。
しかし――これは原書の書評でも書いたのですが、残念ながら個人的には『ロングテール』のような革新性を感じることはできませんでした。これは本書自身が指摘していることですが、物心ついた時からネットの世界に触れているような世代にとっては、いまさら「無料ビジネスが成立する!」と指摘されても「そんなの当然だろ」と感じることでしょう。また「無料」が消費者の心に与える特殊な影響についても、最近流行りの行動経済学の本を読まれている方であれば、どこかで読んだ話だなと思われるはずです(実際、本書でも何回か『予想どおりに不合理』の内容が引用されています)。さらに「こんな昔から」「こんな業界にも無料モデルが成立していた」という事例が紹介されることは、とりもなおさず「無料ビジネス」が特殊な形態ではないということに他なりません。
その意味で、本書は読んで終わりにするのではなく、読んで行動にまでつなげなければ価値がありません。巻末付録として「フリーミアムの戦術」や「フリーを利用した50のビジネスモデル」などといったリファレンス的なコンテンツが掲載されていること、またコラムという形で多種多様なケースが数字・グラフ付きで紹介されていることは、本書が理論書ではなく参考書である現れなのではないでしょうか。ここまでクリス・アンダーソンにお膳立てしてもらって、しかも様々な分野で・様々な形で「無料」が実現できるのだと証明されたのなら、もう「ウチの会社/業界じゃ無理だよ」なんて言い訳はできないはずです。
いや、「ウチじゃ無理だ」と感じた時こそ、そう感じた原因を突き詰めてみるべきでしょう。その原因を乗り越え、無理だと思われていた無料モデルを実現する人物や組織が必ず現れるはずです。そんな一番手になれるのか、もしくは彼らに既存モデルを破壊されまいとする側に回るのか――どちらにしても、本書が貴重なアドバイスを提供してくれることでしょう。
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