勝てば官軍
北京オリンピックで星野JAPANが惨敗し、星野監督に対する非難が巻き起こっています。曰く、「短期決戦なのに不振の選手にこだわった」「首脳陣を仲良しクラブで固めていた」「選手からも反発の声が挙がっていた」等々。さらに星野監督が、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)まで続投するかもしれないという観測が流れたことで、世論の怒りは最高潮に達している感があります。
確かに星野監督の行動には、不可解というか、釈然としないものがありました。個人的にも、彼はきっちり責任を取って、WBCの監督要請を辞退するべきだと感じています。しかし……星野氏が監督をしていなかったら、状況は変わっていたのでしょうか?あるいは、星野氏の行動は全て間違っていたのでしょうか?
『なぜビジネス書は間違うのか』という本があります。文字通り、ビジネス書(に限らず、新聞や雑誌等での企業分析全般)で誤った考察が行われやすい理由について解説しているのですが、その中にこんな実験が紹介されています:
カリフォルニア大学のバリー・ストーがイリノイ大学在任中に行った実験を紹介しよう。ストーは被験者をいくつかのグループに分け、ある企業の今後の売上げと一株あたりの配当を財務データをもとに予測してもらった。そのあと、一部のグループには売上げと株価を正確に予測できたと伝え、残りのグループには予測がはずれたと教えた。だがじつをいうと、結果の通知はまったくでたらめだった。成績が「よい」といわれたグループも「悪い」といわれたグループも出来は同程度で、違っていたのは教えられた成績だけだったのである。そのあとストーは、被験者に自分のグループを評価してもらった。結果はどうだったか。成績がよかったといわれたグループの人は、自分のグループがコミュニケーション能力と柔軟性とモチベーションにすぐれ、結束が固かったと評価した。一方、成績が悪かったと教えられたグループの人は、結束力もコミュニケーションもモチベーションも低く評価した。以上のことからストーは、成果をあげたと思いこんだときのグループへの評価は、成果がなかったと思いこんだときの評価とまったく逆になると結論した。ハロー効果が働いたのである。
つまり「このチームはよい成績を残した」という結果を知ってしまっていると、チーム内で行われた個々の行動について、良いイメージを抱いてしまう傾向があるわけですね。この実験だけでなく、「良い結果を残している人物/組織の行いを無批判に賞賛してしまう」という心理的傾向――ハロー効果について、同書は様々な事例を挙げて解説しています。
本来の意味とはちょっとずれますが、この状況はまさしく「勝てば官軍」とでも呼ぶべきものでしょう。勝てばすべてが是認される――仮に星野JAPANが金メダルを取っていたら、
- 「不振の選手にこだわった」は「選手を信じて使い続けた」に
- 「仲良しクラブ」は「一枚岩の首脳陣」に
- 「選手から反発の声」は「何でも言い合える、また上への意見も厭わないほど積極性のあるチーム」に
それぞれ評価が変わっていた可能性があるのではないでしょうか。
繰り返しますが、だからといって星野監督を擁護すべきというわけではありません。私たちに求められているのは、勝ち負けという結果を切り離して、「今回のチームのどこが評価され、どこが非難されるべきか」を考えることではないでしょうか。無批判に賞賛、あるいは否定するだけでは、北京オリンピックの経験を次に活かすことはできません。何も野球の日本代表に限った話ではありませんが、「勝てば官軍、負ければ賊軍」というメンタリティには常に注意が必要なのだと思います。