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ゴールデンタイムに政治番組を

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『マイクロトレンド』を読むクマ

マイクロトレンド』を読了。米国社会を対象にした本とはいえ、いろいろと考えさせられる「小さなトレンド」が登場するのですが、その中に「富裕層よりも低所得者層の方が政策で政治家を選んでいる」という指摘があります:

最近の世論調査では、過半数に近い48パーセントは候補者の問題に取り組む姿勢がもっとも重要と考えており、キャラクターを挙げたのは32パーセントと、差をつけられて2番手にとどまった。問題への取り組みを挙げた人の割合は大学に進学していても進学していなくても変わらず、宗教観や人種が違っても差はない。ただし、収入が違うと答えも変化する。年収が10万ドル(約1,000万円)を超えると、かなりの人の関心はキャラクターに移る。下の表を見るとわかるが、年収が10万ドル未満では、51パーセント対30パーセントと圧倒的にキャラクターより問題への取り組みを重視する人が多い。しかし10万ドルを超えると、37パーセント対45パーセントで問題への取り組みよりキャラクターが重視される。

合計で29ポイントひっくり返ったことになる。世論調査でここまではっきりと数字が逆転することも珍しい。

富裕層であれば教育水準も高く、政治的な関心も高いだろうというのが従来のステレオタイプですが、それが覆されてしまっているわけですね。様々な社会問題が起きている時代だけに、低所得者層の方が政治的な関心を高めざるを得ない状況に置かれているのかもしれません。さらに本書では「インテリとバカが逆転している」という過激な言葉を使い、「ワシントン・ポスト」などの高級紙であってもタブロイド紙のような興味本位の記事を掲載するようになっていることを指摘しています。

このトレンド、日本ではどうなのでしょうか。残念ながら使えそうなデータが見つからなかったのですが、ちょっと面白い数字があります。ビデオリサーチの視聴率データによると、2008年5月5日(月)~11日(日)の期間で「その他の娯楽番組(関東地区)」ランキングの第10位に「太田光の私が総理大臣になったら…秘書田中」(5月9日放送)が登場しています。この平均世帯視聴率が15.3%。一方、「スポーツ(関東地区)」ランキングでトップに立ったのが、プロ野球・巨人×中日(5月10日放送)で視聴率13.8%。第2位は大相撲夏場所・初日(5月11日放送)で視聴率は12.7%。つまり政治的な内容を扱う番組の方が、プロ野球の巨人戦や大相撲よりも視聴率を取っているわけですね。

もちろん視聴率は同じ時間帯にどんな裏番組があるか、といった要素で左右されるものですし、スポーツの場合は「優勝を争う一戦!」などの方が注目されるということも考慮しなければなりません。また「太田光の私が総理大臣になったら…」はバラエティ番組的な要素が強いので、純粋に「政治を語る」を売りにしている番組と言えない、という反論もあるでしょう。しかし「大衆」をターゲットにしたゴールデンタイムの番組で、政治的な内容を扱うものが一定の支持を得ていることは注目に値するのではないでしょうか(ついでに言えば、キムタクがドラマで首相を演じるまでになっていますしね)。

「テレビがつまらなくなった」と言われます。いまのテレビ局の方々は、その声に「より面白いバラエティ番組」で答えようとしているように感じられますが、それよりも硬派な政治番組の方が支持を集めるかもしれません。別に「お笑い番組を作るな」と言うつもりはありませんが、笑えるビデオならば素人でも作れる/配信できる時代です。実はテレビ局が勝負できるのは、資金力・組織力・人脈力(?)を駆使しないとできない社会派の番組なのではないでしょうか。いま密かに、政治家がゲームに興じる姿を見るよりも、彼らがどう政治に取り組んでいるかを知りたいと願う人々が多数派になろうとしている――というのは、検討に値する「マイクロトレンド」の仮説だと思います。

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