礼儀のない人間は強くなれない
お、あのボクシング選手のネタ?と思われてしまいそうですが、ちょっと違います。将棋の谷川浩司さんが、著書の『構想力』の中でこう述べていらっしゃいます:
礼儀やマナーに気を遣わない人間は、絶対に強くなれない――それは私の確信である。なぜなら、礼儀やマナーとは、言葉を換えれば、他人に対する想像力である。周囲に対して想像力が働かない人間が、対局において想像力を発揮できるはずがないではないか。
谷川さんは勝負に勝つために必要な「構想力」の要として、「二手目の見極め」、すなわち相手がどう出てくるかを想像する力を重視していらっしゃいます。自分がある手(一手目)を指したときに、相手がどう反応して(二手目)、それに対して自分がどう指すか(三手目)を考える――この基本動作ができなければ、自分に有利な構想を描くこともできず、結果として勝負に負けてしまうということですね。そして他人に対する想像力があれば(他人がどう感じるか想像できれば)、礼儀やマナーが生まれてくるはず、なわけです。
ちょっとイジワルなことを言ってしまえば、「他人の気持ちが分かった上で、それでも傍若無人な態度を取る」という人間もいると思います。しかしそんな人間はそれこそ稀に見る悪人で、マナーのないのは大抵「こんなことしたら他人は困るだろうな」という感性が欠けているのでしょう。その意味で、谷川さんの仰ることには非常に共感できます。谷川さんは礼儀やマナーのしっかりした棋士の例として、森内俊之さんや羽生善治さんを挙げていらっしゃいますが、皆さんも身近に「礼儀があって勝負に強い人物」を思い浮かべることができるのではないでしょうか。
で、亀田選手の話ですが……(すみません、やっぱりこっちも触れておきます。)
これまで不遜な態度を「売り」にしてきた亀田一家。どうやら親父さんのセコンドライセンス停止を受けて、トレーニングは協栄ジム側で行うことになりそうですね。この処分がどんな影響を及ぼすかは分かりませんが、亀田家の三兄弟は素質に恵まれているそうですから、礼儀やマナー=相手に対する想像力を身に付けて、ボクサーとしてさらに成長するチャンスかもしれません。もちろん「マスコミの前に出るときだけ丁寧な言葉使いをすればいいや」といった態度では本物の力を得られず、けっきょく反則に頼るような選手で終わりでしょう。また第二・第三の亀田事件を起こさないためにも、見守る私たち、そしてTBSを始めとしたマスメディアにも「二手目の見極め」力が必要なのだと思います。