会話を生む「こだわり」
先週、思わず「へぇ~」と感心させられたことが3つありました:
- ある大学の学長先生。高齢で歯の具合が悪く、前歯を何本か差し歯にしたところ、さ行の発音がうまくできなくなってしまった。しかし卒業式の式辞の際、それを言い訳することなく、あらかじめ「さしすせそ」の音が一切出てこない原稿を作り、きれいな発音でスピーチをこなした。(日経産業新聞 2006年9月14日 第23面「プレゼンテーションの鉄則」より)
- アメリカのハンバーガーチェーン"Burgerville"。アメリカのハンバーガーショップではポピュラーなメニュー「オニオンリング」を、もちろん Burgerville でも扱っているのだが、玉ねぎのシーズン(何と玉ねぎにも季節があるとのこと!)にしか出していない。(Seth Godin の最新刊"Small Is the New Big" p.20 より)
- 香港にあるキャセイパシフィック航空の空港ラウンジ。ビジネスクラスの乗客向けの施設で、充実したサービスが話題を呼んでいるのだが、その一角に「ヌードルバー」というコーナーがある。その場でラーメンを作ってくれるコーナーで、台湾風の魯肉麺、香港名物の雲呑麺、四川風の担担麺、そして日本風のラーメンと豊富なメニューが揃っている。(朝日新聞 土曜版 2006年9月16日 b3面「mo@china -- 空港ラウンジで温麺を」)
いずれも「こだわり」が光る話です。少しぐらい聞きづらいところがあっても仕方ないだろう、玉ねぎの味の違いなんて(しかも揚げた後の味なんて)誰も分からないだろう、サービスにラーメンを出すだけでも凄いのだから味は一種類でいいだろう・・・と、妥協しようと思えばいくらでも(相手にそれと気づかれない範囲で)妥協することができるでしょう。しかしそんな妥協を排し、過剰とも思える努力をして、素晴らしい「サービス」を実現しています。
その結果どうなったかと言えば、いずれの例でもこだわりに感銘を受けた人物が生まれ、彼らによって新聞・書籍で取り上げられることとなりました。そして僕のようなブロガーがさらにブログで取り上げ、それを読んだ誰かがまた・・・というクチコミが進みつつあるわけです。
最近は企業の側から、消費者に対して積極的に話しかけようという取り組みがなされています。ブログ/SNSの活用はその象徴でしょう。しかし単に話しかけるだけで、消費者が企業の側を向き、彼らについて話し始めるほど話は簡単ではありません。語りかける姿勢は大切ですが、話のネタに乏しい人とはお喋りしていてもつまらないように、これといった特徴や「こだわり」のない企業との会話を続けようとする消費者は少ないでしょう。最初は好奇心から注目されていたが、気づいたら企業が一方的に発言するだけになっていた・・・という企業ブログ/SNSは、今後増加するはずです。
「完璧なスピーチを行うために、さ行の一切出てこない原稿を作る教授」「玉ねぎの季節にまでこだわってメニューを考えるハンバーガーショップ」「何種類もの作りたてラーメンを提供している空港ラウンジ」 -- 彼らがもしブログを書くようなことがあったら、僕はぜひ読んでみたいです(当然RSSリーダーに即登録して)。単に彼らの業界に関する話だけでなく、仕事に対する姿勢や哲学など、様々なことが学べるでしょうからね。