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元証券アナリスト、前プロダクトマネージャー、既婚な現経営者が、日頃の思いをつづります。

良いものを見分ける眼

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SAAM (Seattle Asian Art Museum)で開催されていた浮世絵展"Fleeting Beauty"は、7月4日が最終日だった。

ちょっと前、このミュージアムのサポーターの方とお茶をする機会があった時、このすばらしい美術展を、少しでも多くの人に観てもらいたい、何かやりましょう、ということで意気投合。私が会計係を務めているワシントン州日米協会の主催で、プライベートツアーをすることにした。

そのイベントが7月1日に行われた。私は言いだしっぺだけで、日米協会のスタッフの方々が運営を引き受けてくれた。当日は、JAS傘下のJYPG (Japan Young Professionals Group)のメンバーを中心に50名以上が参加した。

今回ツアーを引き受けてくれたキュレーターのキャサリンさんは、JETプログラムで埼玉県に一年間住んでいた。それがきっかけで日本文化に傾倒し、今はUniversity of Washingtonの博士課程で日本美術を学んでいるという。

彼女のツアーは、このコレクションをSAMMに寄贈されたAllan Kollar氏の紹介から始まった。長年アメリカンアートを手がけている画商のKollar氏は、実は日本に行ったこともないらしい。ある日大英博物館を訪れた際、たまたまメーンのコースを外れて併設されていた浮世絵展をのぞき、その魅力にとりつかれてしまった。以来40年近く、こつこつと収集してきた成果が、このコレクションということだ。

Kollar氏はある意味、19世紀のパリジャンの再現だと、キャサリンさんは言う。日本から輸入された陶磁器の包み紙として、くしゃくしゃになった摺り損ないの浮世絵。パリジャンはその浮世絵に、陶磁器以上にとりこになったのだ。海外での評価が逆輸入され、日本で浮世絵が見直されるきっかけになったと、自ら日本に留学してさらに浮世絵研究を続けるのが夢という彼女は語る。

今回のツアーから学んだこと二つ。

一つは、先入観の束縛から離れて物事を見ることの大切さ。なまじ富士山を見たことがあったら、大胆な構図や色の鮮やかさを真正面から鑑賞する前に、こんな風景は不自然とかいう些事にこだわってしまったかもしれない。

次に、真の良さを発見するためには、それなりに研ぎ澄まされた識眼が必要ということ。Kollar氏も、アメリカンアートの優れた作品をてがけ、絵画についての高い感性を持っていたからこそ、浮世絵のすばらしさを見つけたのだろう。また、文化の熟爛した19世紀のパリに住むパリジャンだからこそ、美しいものへの感性が磨かれていたのだろう。

ということで、頭でっかちにならずに、でも良いものとそうでないものを見分けるために、自分の感性を磨くことの重要性を感じた次第。さて、具体的にどうすればいいのだろう?やはり、良いものに直接触れることから始めるべきなのね。地元のミュージアムはもっと頻繁に通う価値があるのかも知れません。

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